第13話 エクスプリスタ!
おかしい、いくらVRで仮想世界を演出していても時間を止められるはずはない!
あ、あれか?この人達全員エクストラでこの企画の為に雇われているとか。
どうりで観光地なのに人が少ない訳だ。
展望台を右回りに進んで行く。その間も数名の動かない人が居た。どの人も普通に展望台に景色を観光に来た人に見える。
この人なんか外に向かって腕を上げて指指ししたまま止まっている。これが演技ならそのうち疲れて腕がプルプルして来るはずだ…
「賢治さん急ぎましょ!」
ぬう、そんな簡単に確かめさせてくれないか。
妖狐さんに呼ばれ更に奥に進む。
奥の方に子供の影があったが動いている。
流石に子供に止まる演技は難しいか。
そう思って良く見るとそれは居た。
「賢治さん居ましたよ、グレゴブンです!」
何そのグレムリンとゴブリンを合わせた様な名前…
グレゴブンと呼ばれるそれは子供の様に背が低く痩せていて腰に布を巻いているだけで後は裸の格好をしていた。
肌色が灰色をしており口が大きく裂け牙が見えている。目は銀色で吊り目、宇宙人を連想させる容姿だ。
手に棍棒の様な物を持っている。
VRとはいえ実にリアルだ。
ピコン!
(グレゴブンが現れた!)
ゴーグルにグレゴブンの情報が表示される。
グレゴブン
等級 F
職業 上空のお茶目さん
特徴 異空間に住む闇妖精
特技 幸せ喰い
【備考】
高い所を好むゴブリンの一種
イタズラ好きで人の持ち物を取ったりする。
人が高い所に居る高揚感を吸い糧にしている。
高揚感を吸われた者は代わりに高さの恐怖を感じる。
吸われ過ぎると高所恐怖症になる。
モンスターにも等級があるのか、俺と同じFという事はこいつも初心者同然か。
物を取られたり高所恐怖症にされるのは嫌だな。
「このところ紛失届けや展望台で気分が悪くなる人が増えていたので警戒していたんですがこのタイミングで出て来るなんて…」
ふむ、妖狐さんはこのようなモンスターを狩る冒険者という設定か。
そして冒険者になった俺もこれを討伐すると…
なかなか凝ったストーリーだ。しかしこれと戦うのか。
リアル過ぎて匂いまで臭って来そうだ。そして臭そうだ…
「ギャギャ!」
(グレゴブンの攻撃!)
しばらくこちらを見ていたグレゴブンだったが俺の方に向かって来た。
ゴツゴツした太めの棍棒を振り上げ上から振り下ろす。
と見せかけてクルッと体を回転させて横からの攻撃に変えて来た!
な、いきなりフェイントを使うのかよグレゴン!
思わず名前を省略してしまった。
と言うかこれ食らってしまうな。
「賢治さん!」
妖狐さんが叫ぶ。
ガイィィンッ
攻撃が当たるかと思った瞬間に何かに空中で攻撃が弾かれた。
これがさっきやってもらった防御結界か?
(結界の保持力が38減少した)
この結界限界があるのか。
ゴーグルに映し出された情報に462/500という数字が見えた。
おそらくこれが0なると結界が消えるのか。
グレゴブンを見ると弾かれた反動でもたついている。今ならこっちから攻撃できるかな?
お土産物の木の剣をギュッと持ちグレゴブンの胴に向かって振り払った。
「グギャッ!」
剣が当たる感触、衝撃が手に伝わり思わず剣を落としそうになった。当然だが切れるのではなくそのまま木の剣で殴った感触だった。
なんだこれVRでなんでこんな感触があるんだよ…
木の剣に何か仕込まれているのか?
(賢治はグレゴブンに中くらいのダメージを与えた)
中くらいってなんだよ!
結界は数値化されてるんだらかこっちも数値化しろよ⁉︎
グレゴブンは反動でよろよろと妖狐さんの方へ行った。
シュバ!
妖狐さんはすかさず手に持った赤い剣でグレゴブンを胴から真っ二つにしてしまった。
(賢治達はグレゴブンを倒した)
「賢治は104expの経験値を得た」
え、これは普通の単位なの?
YUKはどうした?
「賢治は12YUKを得た」
忘れていたかのようにYUKも表示された。
あ、こっちも貰えるのか少ないけど…
てかYUKは妖狐さんが口で言ってなかったか?
真っ二つにされたグレゴブンは灰色のチリになりサラサラと消えた。
妖狐さんが駆け寄って来る。
「賢治さん大丈夫でしたか?」
「え、あ、はい。妖狐さんが張ってくれた防御結界のおかげで大丈夫でした」
「そうですか、よかった」
妖狐さんは本当に安堵している様だった。
凄い演技力だ。
「この木の剣全然切れないのですね?」
「ああ、すみません呪文を教えるのを忘れていました」
「ええ、その剣を強化する呪文です」
「強化ですか?」
「我賢治の名によりかの剣に魔物を倒す力を授けよ」
「エクスプリスタ!」
「です♡」
これは… 声に出して言うのはかなり恥ずかしい…
「これって声に出して言わなきゃいけません?」
「無詠唱は難しいと思いますよ?」
そう来たか…
「ささ!♡」
何故か楽しそうに煽る妖狐さん。
幸い近くに人は居ない様だし仕方がない。
「わ、我賢治の名によりかの剣に魔物を倒す力を授けよ…」
シーン…
何も起きないぞ! 凄い恥ずかしい!
顔が赤くなって来た…
「賢治さんこういう呪文はイメージが大事です。もっと自信を持って言って下さい。エクスプリスタも忘れずに」
真剣な顔で説明する妖狐さん。
「わ、わかりました…」
もう一度言うとは…
覚悟を決めて息を大きく吸い込み叫んだ。
「我賢治の名によりかの剣に魔物を倒す力を授けよ!」
「エクスプリスタ!」
…… …
となりの異世界(ここ普通にお隣の国なんですけど!) りるはひら @riruha-hira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。となりの異世界(ここ普通にお隣の国なんですけど!)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます