第9話 加 護

 TV塔の駅に到着し妖狐さんと二人で改札に向かう。

 入って来た時と同じようにコインをカードを感知するプレートに乗せる。


 あれ?何も起こらない。ICチップが壊れたか?


 ピピツ!


 メガネが鳴りゲートのある位置にマーキングが付いた。

 こんな事も出来るのか… でも何で俺が困っているのがわかるのか…

 位置のマーキングは技術的には可能だと思う。でもそれを判断するとなると…

 本当にここは異世界で俺の知らない事が起きているのかもな。

 それともメガネを通してリアルタイムが誰かが対応しているのか…


 そんな事を思いながらマーキングされた所を見るとコインを投入する所があった。


 あ、そうか。この切符は回収タイプなのか、コインを入れないと出れないから自然と回収され再利用されると。

 切符収集家には残念な事だがこれは効率的だな。


 コインを回収口に入れた。


 ガシャッ


 ゲートが開いた。

 妖狐さんも続いて出てくる。


「これは効率的ですね、再利用が出来るなんて」


「ですよね〜こちらの人は無駄を無くすという工夫を良くやりますね」


 そうなんだな。勉強になる。


 ピロン!


 メガネに何か表示された。


(賢治は地龍の加護を手に入れた)


 はは、地龍地下鉄の加護かどんなのだろうな。

 もうこのロールプレイに慣れて来た。

 そういうものとして楽しもう。


「妖狐さん、地龍の加護というのを貰ったんですが」


「あら、地龍に気に入られたのですね。さすが賢治さん」


「何か効果があるのかな?」


「運賃が5%安くなりますね」


「あー、そういう事なのか…」


 あれか携帯で支払ったからそれでアカウント登録されてメンバー割になったと。

 携帯を見るとメッセージが入っていたがこの国の言葉でさっぱりわからない。

 何故かメガネも翻訳してくれない。


 後で妖狐さんに聞いて見るか。


 登りエスカレーターに乗り地上に出る。

 出口から出ると右手に池の様な所とその真ん中に高い塔が立っていた。


「ここはTV塔と言っていわゆる電波塔ですね。高さは451m、一般が入れる展望台は360mの高さにあります。昔は世界でもトップクラスの高さだったのですが今では他にも高い建物が沢山できましたからね。でもこの塔はこの街のシンボルになってます」


 おお、妖狐さんが旅行ガイドの様な事を言ってる…


「妖狐さんも普通のガイドさんみたいな事言うのですね」


「なんて事を言うのですが賢治さん!ちゃんとガイドしてるじゃありませんか?」


 顔を少し赤くしてぷりぷりして見せる妖狐さん。


「ええ、妖狐さんは素晴らしいガイドさんですね」


 妖狐さんの顔が更に赤くなる。


「許しません!罰としてこうやって歩きます!」


 そう言うと先程と同じように俺の左腕に右腕を組んで来た。


 な! いいのか?

 これいいのか⁉︎


 まさか何も無いのに妖狐さんから腕を組んで来るとは…

 ひょっとしてこれは脈があるのか⁉︎


 ピロンッ

(賢治は妖狐を手に入れた)


 それはもういい!


「では私達も塔に登ってみましょう」


「はひ!」


 いかん、あまりの状況にうわずってしまった。ちゃんとリードしないと。


 塔に向かうべく再度塔を見上げる。

 この塔は俺の国には無い形状をしていた。

 電波塔と言えば鉄骨で組み上げられた物と思うがここの塔は下から上まで1本のコンクリートで出来ている。

 下から上へ徐々に細くなってその上に円盤状の展望台が乗っかっている。

 この高さをコンクリートで作ってしまうとは耐震とか風とか大丈夫なんだろうか…


「塔の下の池は冬になると完全に凍ってスケートができるんですよ」


 池と言ってもかなり広いここが全部凍るのか。冬はかなり寒くなるんだな。


「この土地は寒い土地なんですか?」


「冬は日中でもマイナス温度ですね寒い時はマイナス10度以上になります」


「それは寒そう…」


「夏は40度近くなりますけどね」


 冬は寒く夏は暑いのか… きついな。


「厳しい土地ですね」


「そうでも無いですよ、湿度が低いので思ったより過ごし易いです」


 ああ、気温厳しくても湿度が低いからカラッとしてるのか。

 湿度が高いと暑くも寒くも余計に感じるからね。


「今は貸出ボートをやってますね」


 たしかに回りを見ると小型のボートやスワンがウロウロしている。


「面白そうですね、乗りますか?妖狐さん」


「いえ!結構です!」


 きっぱりと断られてしまった。

 俺と乗るのが嫌じゃなくてもしかして水が苦手なのか?

 そういえばこの塔の入り口に行くまでには池の真ん中に掛かった橋を渡らないと行けない。


 ああ。だからか! 水が嫌いだから俺に支えてもらうように腕を組んだのか…

 でもそうだとしたらどんだけ水が怖いのか…

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