第8話 地 龍

 妖狐さんにガッシリと腕を組まれて地下鉄に向かっている。

 歩く度に良い匂いと左腕に柔らかな感触が…

 至福の時間だった。


 ほどなくして地下鉄の入り口らしき所に到着。

 エスカレーターで地下に入って行く。

 中は明るく、綺麗だった。

 券売機まで来ると妖狐さんは腕から離れた。


 ああ、もう至福の時間は終わりか…

 腕から離れた彼女もどこか寂しげな表情に見えたのは俺がそうあってほしいと思ったからそう見えたのだろう。


「ここで切符を買いましょう」


 券売機を見ると大きなタッチパネル式になっておりどこまで行くかをタッチするようになっていた。

 眼鏡にメッセージが表示される。


(券売機が現れた!)


 いやw最初からここに有るよね?

 切符を買うというクエストか?


「賢治さん買えますか?」


「目的地を教えてもらえればわかりそうですね」


 自慢じゃないがこの手の事は割とスムーズに出来る方だ。


「目的地はTV塔ですね」


 おお、こちらにもスカイツリーみたいな高い塔があるのかな。


 券売機の画面からそれらしいのを探す。

 4つ先の駅名にそれらしいのがあった。

 躊躇なくその名前をタッチすると値段らしい数値が表示された。


 でもこれは一人の運賃だな。


 横を見ると人の形をしたボタンがあったので押してみると1人~3人のマークが現れた。2人のマークをタッチする。

 さっきの数字から倍の数字なった。これで合っているようだ。


 下の方に眼鏡を通して支払いという文字があるのでそれを押す。

 画面にQRコードが表示された。


 これは、さっきの屋台の時と同じか…


 携帯を取り出しQRコードを読み込むと支払う価格と同じ数字が提示された。

 携帯の支払いを押してパスワードを入力する。


 175169 いせかいりょこう っと


 ピロン! ガシャガシャッ カラカラン!


 下の取り出し口に何か固い物が落ちて来た。

 中に手入れて取り出して見る。

 それは緑色をしたプラスチックのコインだった。


 テッテレー!

(賢治は 異世界の緑貨りょくかを手に入れた)

「異世界の緑貨

 地下を高速で移動する地龍ちりゅうに乗る事が出来る不思議なコイン。

 都市それぞれの貨幣があり他の都市では使用出来ない」


 なるほど地下鉄を地龍に見立てているのか。

 昔やったRPGを思い出し思わずニヤけてしまった。


「おめでとうございます、これで地龍に乗れますね」


 そんな俺を察したのか妖狐さんもノリノリにロールプレイを推してくる。

 2枚出て来たので1枚を妖狐さんに渡しながら聞いた。


「あ、ありがとうございます。これが切符なんですか?」


 ロールプレイで忘れていたがこっちでは地下鉄の切符は紙じゃないらしい。


「そうです、さあ出発しましょ」


 妖狐さんに案内され改札口に行く。

 改札口はよく見る自動でゲートが開閉する普通に見られる物だった。

 これでこのコインをどう使えばいいのだろうか?


「これをですね…」


 妖狐さんがコインを自動改札機の上にあるカード読み取り部分に押し当てた。


 ピ!


 音と共にゲートが開いた。


 なるほどコインにICチップが入っているのか。


 真似をして俺もゲートを開け中に入る。


「タータタッタ、タッタッター」


「賢治は地龍の門をクリヤーした!」


 妖狐さんがアナウンスする。


「賢治は経験値500YUKが入った」


 500⁉︎ おやじの時は10だったのに?

 おやじさん安いな…


「凄いですよ賢治さん、あの券売機を簡単に攻略出来るなんて!」


 そ、そうなのか?あれくらい普通だと思うが。


「あれくらいは誰でも出来るかと?」


「いえいえ、皆さん割と戸惑うのですよ。私なんかわからなくて担当の人を読んじゃうくらいです」


 何故か自慢げ腰に手を当ててフンスとしている妖狐さん。


「ですから経験値も多めにあげちゃいました」


 経験値は妖狐さんの裁量らしい。


メガネにメッセージが表示された。


(妖狐の好感度が上がった)


 好感度ってそんな事までわかるのか?どこかで誰か見ていてメッセージを合わせて来てるのか?

 ま、まあ妖狐さんに良く思われるのはちょっと嬉しいが…


 そうこうしていると地龍電車が来た。

 地龍と思って少しワクワクして待っているとがっかりするくらいに普通の地下鉄だった。


 乗り込みTV塔を目指す。

 地龍の中は綺麗だった。椅子は窓側に並列で設置されており案内のモニターがあちこちに付いていて俺の国の地下鉄と変わらない。

 いや、こっちの方が良い感じがする程だ。


 乗っている間、周りの視線を感じる気がする。

 この国の人達は俺の国の人と人種も似ており一見したら見分けがつかないが俺が外国人というのはわかる様だ。

 服装なのか立ち居振る舞いなのかはわからないがそんな視線を感じる。


「俺が外国人というのが皆んなわかるんですね?」


「そうですね、服装とか髪型、靴など。あとは肌の色が白いのでわかりますね」


 やはり微妙に違うものなのか。

 肌が白いのはほとんど外に出ないからな〜


「妖狐さんも透き通るような白い肌で素敵ですよ」


「な、突然何を言うんですか!」


 顔を赤らめて俺の左手腕をペシペシ叩いている。

 うん、可愛いな。

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