第7話 俺にも春が!
間抜けにも盗賊に財布を盗まれた俺だが妖狐さんがあっという間に取り返してくれた。
しかし50mの距離を一瞬で移動し最小限の動きで盗賊を倒してしまうとは本当にS級冒険者ではと思ってしまう。
妖狐さんは倒れている盗賊から財布を取り返すとそのまま何もせずこちらに戻って来た。
盗賊をそのままにしていいのだろうか?
「はい、危ないところでしたね賢治さん」
唖然としている俺ににっこりと取られた財布を渡す。
「あ、あいつはあのままでいいんですか?」
「ええ、いい忘れましたがこの世界ではこの様な事は日常茶飯事であの程度でしたら取られた物が戻ってくればあまり気にしないのです」
何それ、怖い。
「警察に通報してもいいのですが聴取とかなんやかんやで時間が取られてしまいますから」
「パプニングがあったのにさらにその為に長い時間が無駄になるのを嫌う傾向にありますね」
そういうものなのか?このまま逃したら他でまた同じ事をするだろう。
「それに今は誰でも携帯を持ってますからほら、皆んな犯人を撮ってますでしょう?」
確かに皆んな犯人に携帯を向けている。
「あの犯人は色んなサイトで写真や動画を上げられ当局もすぐ対応するでしょう」
当局が何かわからないが警察みたいなところだろうか。
しばらくすると妖狐さんが言ったようにポリスと文字の入った警官の様な人が何名か来て気絶している犯人を連れて行った。
「さ、行きましょう。ここに居たら騒ぎに巻き込まれますから」
巻き込まれるというかその大元なんですけど…
でも確かにこの場を離れた方が良さそうだ。人が大勢集まって来ている。
「行きますよ」
んん⁈
妖狐さんは俺の左手腕に右腕を絡め歩く出す。
こ、これって恋人繋ぎじゃ…
妖狐さんはその華奢な体型と反して力強くがっしりと俺の腕を支えて引っ張る様にその場を後にした。
「よ、妖狐さん⁉︎」
「しばらくこのままでお願いします」
このままはいいがあれだ。
何というかがっしり腕を組まれているのでその何やら腕にぽよぽよと当たるんですけど!
しかも妖狐さんからは甘く爽やかな香りが漂って来てどうすればいいのか全くわからない!
ポロン!
(賢治は妖狐を手に入れた)
いや、手に入れてねえよ!
何なんだこのメガネ!
他から見ればラブラブな状態で妖狐さんが言った。
「賢治さん…」
え、なんか妖狐さんも顔が赤らんでいる。
「は、はい!」
「どこか観光したいところはありますか?」
ですよね〜
一瞬告白されるのかと思った、そんな事は天地がひっくり返ってもないだろう。
生まれてこの方彼女というものを知らない俺は幾度もその様な妄想を抱き砕けて来たのだから…
ああ、自分で言ってて虚しくなって来た。
「あ〜お上りさんというか高い所に行って街全体を見たいかな…」
「高い所ですか?いい所がありますよそこに行きましょう」
妖狐さんの頬がほのかに赤くなっている。妖狐さんもこの状況は恥ずかしいのだろう。
それもそうだなこんなおっさんと一緒なのだから。
いや、おっさんに引っ付いているのを必死に我慢しているのか⁉︎
すみません、こんなおっさんで。俺が財布取られなければこんな事には…
「賢治さん?どうしました?」
は!
あまりにも今までに無い状況に現実否定していた。
「い、いえ。大丈夫です。そこに行きましょう」
「それではこのまま地下鉄に乗りますね」
おお、地下鉄があるのか。
「はい、よろしくお願いします」
妖狐さんは ふふ と微笑み二人で腕を組んだまま地下鉄に向かった。
妖狐さんが少し楽しそうにしている様に見えたのは俺のそうあって欲しいという願望なのかもしれないな…
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