第6話 S級冒険者

「そろそろ夕食ですね、本日はこの宿での食事にしましょう」


「はい、よろしくお願いします」


 二人で部屋を出て食堂に向かう。

 最上階にある食堂に着いた。

 中を見ると様々な料理が置かれておりバイキング形式になっている様だ。

 窓側の席に案内されそこに座った。

 奥では調理服を着た人が何かを作っている。その場で何かを作ってくれるみたいだ。


「飲み物はどうしますか?お酒飲みます?」


 俺は酒は強い方ではないがここは飲んでみよう。


「そうですね、あまり強くない物を」


「それでしたらエールがいいですね」


 エール?異世界物で言うビールかな?


「それじゃそれで」


「わかりました」


 そう言うと妖狐さんは手を挙げて店員を呼び注文をした。


「それでは料理を取りに行きましょう」


 バイキングだったな。


「はい」


 一緒に料理が並んでいる所に行く。

 色んな料理がありどれも美味しそうだ。


「これは… 豆腐ですか?」


 2センチ位の大きさのブロックになって小さめの器に積み重なっている豆腐の様な物があった。しかし色がやや桃色をしている。


「それは… 臭豆腐ですね」


 臭い豆腐… なんだか危なそうなやつだな。


「やめときます」


「そうですね、豆腐を発酵させた物なのでクセが強いですから」


 うむ、危なかった…

 お、あれは…


 向こうのデザートのコーナーと思われる所には黒く光るタワーがあった。

 近くに行ってみると黒い液体がタワーの上からドレスのスカートの様に全体に広がりながら流れ落ちていた。

 甘い臭いがする。


「チョコレートか」


 温めているわけではないのでチョコレートクリームなのかな。なめらかに流れる落ちている。


「これはどうやって食べるんですか?」


「これはそこにあるフルーツに絡めて食べますね」


 おお、美味しいやつだ。

 デザートが先になってしまうが食べたい。


 メロンを切った様な物に串が刺してあるのを手に取りタワーに入れてみる。

 みるみるとチョコレートで包まれて行く。


「そちらから先でしたらワインの方が良かったかもですね」


 うむ、ワイン… 合いそうだ。


「私はお酒はあまり強くないのでビールで十分ですよ」


「そう… 残念」


 妖狐さんワイン飲みたかったのか?


「俺に構わず妖狐さんワインどうぞ?」


 妖狐さんはにっこりして言った。


「大丈夫ですよ、今度一緒に飲みましょう」


 なかなか良い雰囲気だ。


 その後も特色のある料理を頂いたがデザートに季節外れの果物があったのは印象的だった。

 まだ春に入るかどうかと言う季節だがスイカや梨、苺、葡萄などあった。聞くと南の方でハウス栽培らしい。味は悪くないが取り立てて美味しくもない感じだった。

 しかし全体的に生物の料理が少ないので果物はありがたい。その夜は様々な料理を楽しめた。


 コンコンッ


「おはようございます、賢治さん朝ですよ〜」


 もう、朝か…

 素敵な女性に起こしてもらう感覚は癖になりそうだ。


「はいー」


 身だしなみを整えて部屋から出る。

 香しいコーヒーの匂いが漂っている。


「簡単ですが朝食を作りましたのでどうぞ」


 なんと、妖狐さんの手作り!

 てっきり朝も食堂かと思ったがこれはありがたい。


「ありがとうございます、なんかすみません」


「いえいえ、料理は好きですから」


 フリルの着いた白いエプロンを付けた妖狐さんの自然な笑顔が神々しい。

 テーブルに座り手料理を眺める。

 味噌汁に白いご飯、海苔に油揚げ。


 ここでもしっかりと油揚げがあった。

 味噌汁を見るとそこにも小さくカットされた油揚げが浮かんでいる。


 うむ、妖狐さんの得意料理は油揚げだな。


 妖狐さんも向かいの席に着く。


「頂きます」


「召し上がれ」


 こっちに来てがっつりとした日本食が食べれるとは思ってなかったので嬉しかった。

 しかもどれもうまい!


「美味しいですね、最高です」


「ふふ、頑張った甲斐がありますね」


 もしかして旅行中毎朝こんな感じなのだろうか…

 こんなの毎日食べたら戻って一人寂しくパンをかじる生活に戻れなくなるぞ。


「今日はこの後、街を観光しましょう」


 あ、そう言えば旅行に来ているんだった。普段の生活と違う環境で脳が戸惑っている様だ。


「はい、お願いします」


 美味しい朝食を二人で頂き準備をして部屋を出た。

 ルームカードをフロントに預けると思ったらそのまま外に向かう。


「カード預けなくていいんですか?」


「ええ、必要になるでしょうから」


 ホテルの外でルームカードを使う機会は無いと思うが…

 これはきっとロールプレイのフラグなんだな。

 冒険者カードと言っていたし。

 そう思ってカードを見ると昨日はなかった文字が書いてあった。


 え?なんだこりゃ。


 冒険者 小島賢治

 等級 F

 職業 トラベラー

 特徴 無職

 特技 妖狐のお供


 良く見るとカードに書いてあるのではなくメガネを通してカードを見るとそう見える様に文字が映し出されていた。もうこのメガネなんでもありだ。


 しかしなぜ俺が無職と分かったのか、そして妖狐のお供って。


 ドン!


「はう!」


 突然後ろから何かがぶつかって来た。

 カードを落としそうになりバランスをとる。


 ポン!


(盗賊が現れた!)

「賢治は財布を盗まれた」


「え?あ!財布が無い!」


 慌ててぶつかったであろう者を探した。

 急いで離れようとする人物が居る。黒の革ジャンに黒い帽子を被っており走り去ろうとしていた。


「賢治さんはここで待っていて下さいね」


 妖狐さんはそう言うと彼女の姿が目の前から消えた。

 次の瞬間、逃げ去る盗賊の前に立っている妖狐さんが居た。


 今ここに居たよね?なんで一瞬であそこに…


(盗賊の発言)

「おら!そこ退け!」


 こんな時もしっかりロールプレイしてくれるメガネ。


 盗賊は立ち塞がる妖狐さんを退かそうと右手を伸ばした。

 妖狐さんがその手を左手で素早く掴み手首をクルッとしたかと思ったら盗賊は逆さまに宙に浮いていた。


 ドシャ!


(妖狐の攻撃)

「妖狐は盗賊を倒した」


 倒したのかすげーな!

 しかし、妖狐さん強くない?

 さすがS級冒険者…

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