第3話 おやじが現れた!

 可愛いガイドの妖狐さんと近くの露店に近づいて行った。

 露店は食べ物を販売しているらしく車輪が付いていて引っ張ってここまで持って来れるほど小さい露店だった。

 看板には クレープ と書かれているのをメガネが翻訳してくれる。


 まじでこのメガネすごいな…


「デロデロリン〜」


 何? どうした妖狐さん?


 妖狐さんは真顔のまま続ける。


「露店のおやじが現れた!!」


 はい?


「ささ、露店の親父が現れました。頑張って攻略して下さい」


 いや、現れたというかさっきから居たよね?

 それに何でRPG風なの?

 しかも妖狐さんが言ってるし。


 ピコン!


 メガネに何かが現れた。


 クレープを焼いている親父の横と下の方に文字が出ている。


 クレープ屋のおやじ LV32

 この界隈で11年間クレープを焼き続ける猛者

 特技:クレープ焼き

 趣味:ミーちゃんが好き

 攻略難度:ちょろい


 これは親父にステータスか?

 でも役に立つ情報ないだろこれ…

 特技クレープ焼きって見ればわかるわ!

 ミーちゃんが好きって何だよ⁉︎ 趣味ですらねえだろ!

 LVはあれだな多分年齢か…

 ちょろいのはありがたいが…


 下の文字は… まさかたたかうとかじゃないよな?


 〉クレープを買う

 〉値切る

 〉ミーちゃんを褒める


 ほんとにRPGみたいだな… いや、内容的にはアドベンチャーゲームか…


「さあ、賢治さんお選び下さい!」


 妖狐さんメガネに映っている内容は俺にしかわからないはずなのに内容は全て把握しているのか。

 さすがガイド…

 しかし選ぶと言っても実質2択じゃねぇか。

 ミーちゃんを褒めるって…何かのフラグでしかないだろう…どうなるか選んでみたい気もするがこれはゲームじゃない現実!ここは慎重に…


 ってもはや異世界でもないじゃねえか!!

 何をやらされてるんだ俺。


 妖狐さんを見ると純真無垢ない瞳で俺を見つめて居た。


 ちきしょう、そんな目をされてはやるしかないじゃないか。


 そう言えばこれどうやって選ぶんだ?


「これってどうやって選ぶんです?」


「あ、失礼しました。選んだ項目を声に出してもらえばいいですよ」


 なるほど音声認識か、それじゃ…


「ミーち…」


 言いかけて妖狐さんを見ると物凄いそれを選ぶ?みたいな顔をしていた、そして空気読めよ!という蔑んだ目をしている。ミーちゃんはただのネタなのか?それともネタを用意していないのか?

 妖狐さんの蔑む目に耐えきれず無難な選択を口にした。


「ク、クレープを買う!」


 親父がこちらを見つめ、何かを言った。

 当然言葉はわからない。


 ピコン!


 メガネにまた文字が表示された。


(おやじの発言!)

「何入れるんだ?」


 おお!リアルタイムに翻訳までしてくれるのか!

 相変わらずゲーム風だが…

 横にメニューという文字ピコピコしている。


 これだな。


「メニュー」


 するとクレープのトッピングが表示された。

 かなり多い、視線を下にすると自動的にスクロールされる。ほんとこのメガネだけでも異次元だな。


 トンカツ、ウインナー、じゃがいも、レンコン、豚肉、チンゲンサイ、ロバ肉… すごい種類があるな。

 ロバ肉って食べた事ない。

 しかしどれも俺が知っているクレープのトッピングではなかった。甘い物が無い。


「妖狐さんこっちのクレープは甘く無いんですか?」


「そうですね、ここはクレープというより焼き包みのお店ですね。デザートというより軽食ですね」


 なるほど、軽食か。


「ちなみに妖狐さんのおすすめはどれです?」


「油揚げです!」


 即答⁉︎


「油揚げですか、本当にキツネみたいですね」


「そ!そんな事はないですよ!!」


 な、何だこの慌てよう? まさか本当にキツネが人に化けているとでも言うのか⁉︎


「冗談ですよ、ケモ耳も尻尾もないですしね」


「当たり前ですキツネのわけないですコン」


 コンって言った!


「妖狐さん…」


「そ、それより早く頼まないとおやじさんを攻略できませんよ」


 色々不思議なこの旅行、演技にしてはあの妖狐さんの慌てよう…

 だがわざとらしい語尾…

 まあ、こんな現実的な異世界なんてないだろうしな。

 慌てる妖狐さんも可愛いからそれで良しとしよう。


「それじゃおすすめの油揚げをお願いします」


 おやじさんがまた俺をじっと見て言った。


(おやじの発言!)

「何個だ?」


 妖狐さんも食べるかな…


「2個で」


 おやじさんは俺を見て何も言わずに作り始めた。


 ちゃんと伝わったのか?

 あれ?そう言えば俺はメガネがあるから相手の言葉がわかるが何でこっちの言葉がおやじさんにわかるんだ?俺の国の言葉を話せるとか?


「妖狐さん、おやじさん俺の言葉を理解してるみたいですが言葉が解るのかな?」


「いえ、賢治さんにお貸ししたそのメガネです」


 どゆこと?


「賢治さんの言葉を翻訳した文字がメガネに映し出されるのです。おやじさんはそれを見ていました」


「そんな事出来んの⁉︎」


 通りでおやじさんが俺を見つめるわけだ。


「このメガネすごすぎません?」


「VRメガネの応用ですから」


 また爽やかな笑顔で答える妖狐さん


 うん、この笑顔になる時は聞かれたくないんだな…


 しかしこのメガネ俺も欲しい…



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