ワタリ廻廊

金谷さとる

アテンダント

「アテンダント?」

 聞きなれない男の子の声が聞こえた。

「この本屋さんでは栞のことをそう呼ぶんだよー」

 こちらは聞き馴染みのある少女の声。

「ふぅん」

 一般のお客さんなのだろう。興味は薄そうだ。ぼそぼそと会話が続いているようだと思ってたら。

「オーナー、このアテンダント買いまーす」

 いつも元気なネオンくんがレジに特攻してくる。

「もう少し、声量落としてね」

 そう注意すればえへへと照れたように笑う。こりてないな。

「すみません。あとコレも」

 追いついてきた少年の声と共に差し出されたその本は猫の画集。スマートに両方の代金を支払う。アテンダントも猫だ。ネオンくんも猫好きだから猫好き同好会かななどとも思う。

「そして、オーナー、個室貸してください。デートなんです」

 ネオンくんが力いっぱい言い切る。数少ないお客さんたちがちらほら音を立てずに拍手をおくっている。

 ネオンくんはこの書店『ワタリ廻廊』の常連のひとり。普段お互い関わりあわないはずのお客様たちがそれぞれになんとなく見守っている少女である。

「え?」

 この疑問を込めた「え?」が誰のものかわかりにくかったのはそのせいだと思う。

「一時間、ゆっくり画集を楽しもうよ。タイくん!」

「……ん。そうだね」

 少年!

 彼氏!

 そこでかわいくてしかたないって表情でネオンくんに主導権を譲っちゃっていいのかい?

 部屋のレンタル料も少年、タイくんが支払う。「お部屋代払うよ?」と言うネオンくんをにっこり笑顔で黙らせて。

 タイくんはこれから未知を体験することになるんだろう。ネオンくんは常連だから心配してはいない。

 それにアテンダントが安全に彼らを案内するだろう。

『ワタリ廻廊』は本を売る。

 お客様は入った時と同じ荷物で帰っていく。

 ちょっぴり本の世界の思い出を抱いて。

 ところで一度、渡ると本は燃え尽きるし、栞も砕けるんだけどネオンくん、ちゃんと説明してくれるかな?

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ワタリ廻廊 金谷さとる @Tomcat

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