ゾンビが現れた時に本屋に立てこもる妄想

真名千

ゾンビが現れた時に本屋に立てこもる妄想

 ゾンビが現れた時に本屋に立てこもる場合、最大の弱点は食料がないことである。お菓子を売っている本屋であれば幸運。意外と盲点になっているかもしれない。水については外に自販機が設置されていれば製品の回収を試みる。焦って騒音を出さないように!なければ雨水が頼りである。

 利点としては当然ながら紙の本がたくさんあること。ライフラインが途絶しても本が水を沸かしたり暖を取る燃料になってくれる。ゾンビに攻められていない時間は暇を持て余すと思われるが、本に囲まれているから読書好きは困らない。

 本好きが集まってくることも利点と言えるかもしれない。本好きに悪い人間はいない――と良いなぁ。海賊漫画好きなどは少し覚悟しておく。

 寝る場所には雑誌を敷き詰めて、あればカーテンを掛け、ベッドにすることで床との直接接触を避けられる。野宿する泥棒がナショナルジオグラフィックをブロックにして床材に使っていたのはあまりにも有名。


 籠城にはまず出入り口を本棚で塞ぐ。いったん本をおろして棚を運んでから本を過積載気味に乗せれば一体や二体のゾンビでは動かせないはずである。外面がガラス張りになっているよくある設計だったら、ガラス側にも本棚を隙間なく並べなくてはならない。

 ゾンビが襲ってきたら本棚越しに重い本で殴る、重い本を投げつけるなどして抵抗する。文房具売場のハサミや定規なども凶器になる。


 店内に侵入された場合の最後の抵抗として、本で作った階段で背の高い本棚の上に登れるようにしておいて、登りきったら本の階段を蹴り崩す。大量のゾンビが流入して仲間の背中をよじ登ったり、本棚を押し倒したりすることがあれば、万事休すだ。


 最後はゾンビが生前に本屋に行く習慣を失っていることが頼りである。きっと電書ばっかりになって紙の本を買わなくなった人間は、ゾンビになっても本屋には来ない。

 悲しいけれど、これが希望だ。

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