第75話 愛の誓い

半年後・・・・


「神の元、2人が夫婦になったことを宣言する」

神父の言葉に2人は互いを見つめ、微笑み合う。そして、誓いのキスをする。

そんな2人を見守る人達の中に、カルドやマルク、ルドルフがいた。

テオやジュリアンナ達も同席している。

そして、人間国の新しい王として王子も招かれていた。

式が終わるとバルコニーへ出て、集まった観衆に手を振るとレイは目を閉じ、獅子へと姿を変える。

その姿に誰もが息を呑み、見惚れる。

白く輝く毛並みに凛とした立ち姿。樹の背丈ほどある大きなその姿は王家そのものの風格だった。

樹はその毛並みを抱きしめ、口元にキスをして微笑む。

レイはお礼にと樹の頬をぺろりと舐めた。

その幸せそうな2人に、周りからは拍手と祝福の声が上がった。


結婚式前日、樹はレイから獅子の姿になる事を知らされていた。

その姿を晒すのは王位継承の時と、成人の儀、そして結婚式の時だと説明される。

獣人国で先祖返り、つまり動物の姿に変えれるのは王家の血筋しかいない。

その象徴である姿を晒す事は、正真証明の王族であることと、王族の力を示すためだという。

樹が王位継承と成人はわかるが、何故結婚式なのかと尋ねると、レイは微笑む。

「獣人にとって番は命と同等に大事な存在だからだ。獅子の姿を見せる事で、その姿を持って樹を愛するという誓いと共に、樹は王族の一員である事を知らしめ、その王族の一員である樹に、私の番に手出しをするなという、一種の威嚇みたいなものだ」

その言葉に樹はふふっと笑みを溢し、変なのっと呟いた。

「威嚇なんかしなくても誰も僕に手なんか出さないよ。だって、こんなにも強くて逞しい旦那さんがいるんだもん」

「そうだな。何があっても樹は私が守ってみせる」

2人はクスクスと笑いながら、互いに繋いだ手をぎゅっとにぎり続けた。


披露宴が終わり、樹はレイと一緒に馬車に乗り込む。馬車が動き出した頃、樹がレイに言葉をかける。

「ねぇ、レイ。疲れた?」

「そうだな・・・だが、樹の方が疲れたのではないか?今日は灯りのある室内だからと、ここぞとばかりにいろんな人が挨拶に来たからな」

「そうだね・・・僕、あんなに沢山の人と話したのは初めてだ。貴族のマナーってのも忙しくて覚えきれなかったし・・・」

「そんなことはない。よく出来ていた」

「本当かな・・・?レイは僕に甘いから・・・それより、お願いがあるんだけど・・」

「なんだ?」

「疲れてたら今度でいいんだけど・・・前にレイが連れてってくれた月が綺麗に見える場所に行きたい。今なら見えると思うんだ」

「樹が大丈夫なら、邸宅に着いたらその足でそのまま行こう」

「本当に?僕は大丈夫だけど・・・」

「私も大丈夫だ。樹の願いはできる限り叶えてやりたい」

「本当にレイは僕に甘いんだから・・・」

「私は樹を甘やかすことが幸せなんだ。諦めてくれ」

「なにそれ・・・」

樹は呆れたような顔をするが、すぐに笑顔を浮かべ声を出して笑った。


「わぁ・・・綺麗だ・・・」

ぼんやりではあるが、以前より見える大きな月と周りに煌めく星を見上げ、樹は感嘆の声を漏らす。

レイが持ってきたラグを敷き、樹を座らせると肩にブランケットをかける。

しばらくの間、互いにもたれかかりながら静かに空を見上げていると、樹が口を開く。

「レイ・・・」

「なんだ?」

「レイには心から感謝してる。僕の元に来てくれてありがとう。ずっと僕を忘れないでいてくれてありがとう。僕を見つけてくれてありがとう。ずっとそばに寄り添ってくれてありがとう」

樹は言葉を並べながら、レイを見つめる。

「僕に愛をくれてありがとう。僕はずっとレイのそばにいて、レイを愛していきたい。レイ、心から愛してます」

言葉の終わりに樹は満面の笑みを浮かべる。

レイはその言葉に尻尾を揺らし、笑みを浮かべる。

「樹があの時、私を見つけてくれたから今があるのだ。私こそ、樹には感謝する事が沢山ある。一番は私に誰かを慈しみ愛する心をくれた事だ。樹、私はこの先も生涯を終えるその瞬間まで樹を愛し続ける。それが私の喜びであり、幸せだ。

私の愛を受け取ってくれてありがとう。愛してる、樹」

「僕も愛してる」

2人は互いにおでこを合わせ、微笑み合い、そっとキスをする。

そして、また肩を寄せ合い、空を見つめた。

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獣人騎士は尊き人間を愛す 颯風 こゆき @koyuichi

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