第72話 慈しむ人達

「樹、王子とは何を話していたのだ?」

夜も更けた寝室で、ベットに横たわりながらレイが樹に問いかける。

樹はレイが回した腕に頭を乗せ、レイを見つめる。

「美緒さんの話だよ。王子は・・・まだ美緒さんを想ってて、それで悲しんでた」

「そうか・・・・」

「レイ、僕、番になった翌朝、泣いてたでしょ?」

「あぁ・・・」

「あの時は話せなかったけど、僕、夢の中で美緒さんとおばあちゃんに会ったの」

「美代子殿にもか!?」

「そう。本当はもっと早く会いにこれたのに、僕が塞ぎ込んでたからなかなか会えなかったんだって」

「そうか・・・」

「美緒さんが言ってた。僕と美緒さんとおばあちゃんは、家族の糸で繋がってるって。だから、いつも側にいるって言ってた。それに・・・」

「それに?」

「おばあちゃんが僕を守ってくれるって。僕とライオンレイがしてくれたみたいに、僕とレイを守ってくれるって」

「ライオンレイ・・・美代子殿は私をちゃんと覚えてくれていたのだな」

「当たり前だよ。おばあちゃん、レイが大好きだったもん。それから・・・レイ、僕、美緒さんと同じ加護の力があって、それが解放されるんだって」

その言葉にレイが眉を顰める。

「僕、この力を美緒さんに変わって、みんなの力になりたい」

「しかし・・・」

「美緒さんね、王子の夢にまで出て、僕が力を解放しても、僕に手を出すなって怒ってくれたんだって。それで、王子が約束してくれた」

「そうか・・・・」

「ねぇ、レイ・・・」

樹はそっと両手でレイの頬を包む。

「レイが心配してる事はわかる。僕もそれは心配してる。でも、美緒さんが力を幾つしむべき人や愛する人に使いなさいって言ってたの。僕もそうしたい。だから、レイも許してくれる?」

「樹は本当にそうしたいのか?」

「うん。誰かの為に、誰かの力になれるならそうしたい。僕には愛するレイがいて、僕を大切に想ってくれるテオやジュリアンナさんや、中間街のみんな、獣人国の王様達、それに王子もいる。その人達は僕にとって慈しむべき人達だと思うの。だから、みんなが幸せになれるように力を使いたい」

「そうか・・・わかった。ならば、私は樹のその願いが叶うように、樹の側で守り、支えよう」

「うん。レイ、ありがとう。本当にありがとう。大好きだよ」

樹は微笑みながらレイにキスをする。レイもまた樹に囁きながらキスを返した。



翌朝、早朝から邸宅は慌しかった。

レイは街を巡回し、式典の護衛配備の確認があると先に家を出た。

樹も早々と食事を済ませた後、テオに手伝ってもらいながら着替える。

開門の式典では樹はレイの婚約者として王族の席に座る。その後に追悼式が行われ、樹はそこで挨拶をする事になっていた。

テオが髪を整えている間、あらかじめ書いてあった追悼文を握りしめながら、ブツブツと読み返す。

「樹様、少しは力を抜いてください。ジュリアンナ様と何度も打ち合わせしたんです。きっとうまくいきますよ」

「わかってるけど、たくさんの人の前で話すのは初めてだから、どうしても緊張しちゃって・・・」

「無理して覚える事はしなくていいんです。もし、緊張で言葉を忘れてしまったら、人呼吸して樹様の思う事をそのまま話せばいいんです。聖女様への想いをそのまま・・・」

「美緒さんへの想い・・・そうだね・・・テオ、ありがとう」

「ふふっ・・では、樹様、準備が整いました。会場までテオがエスコートしますので、安心してくださいね」

テオが誇らしげに胸をポンと叩くと、樹はそれを見て声を出して笑った。

邸宅を出て、会場へと歩く。

中間街はそんなに大きくはない。それでも、今日は街にたくさんの人が来ていた。その中には子供もいる。そんな中を馬車で通るのは危険だとレイの判断で、催しの間の三日間は馬車での走行を禁止している。

その為に、位の高い貴族達は会場の近くの宿に泊まってもらっていた。

貴族は歩くのを嫌うというジュリアンナの提案だ。

賑わう街並みを見ながら、そこを行き交う人達の笑顔に樹は自然と笑みが溢れる。

人間と獣人、みんなが笑顔で行き交う。

僕が慈しむべき人達、守るべき笑顔、僕は強くならなくちゃ・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る