第71話 再会

三ヶ月後・・・

日も落ちかけている中、樹は両手いっぱいにかすみ草を抱え走っていた。

式典と慰霊祭が明日に迫っていたからだ。すでに人間国、獣人国の王家と使徒団達は到着しているが、美緒の為に双国に注文していた花々の到着が遅れ、前日になってしまった為、朝から中間街の住人達にお願いして、各所へ花を飾り付けていた。

樹は王様達への挨拶もそこそこに、パタパタと忙しく動いていたが、日も暮れ始めた事で、明かりが煌々と付いている式台周辺の飾り付けをしていた。

そこには美緒の像が立っている。

明日にはここに沢山の人が来て、像の周りに花を添える事になっている。

樹は美緒の像を見上げながら、優しく微笑むと、足元に一本一本丁寧にかすみ草を飾り付けていく。

「樹殿、私にも手伝わせてくれないか?」

そう声をかけられ振り向くと、そこには優しく微笑む王子が立っていた。

ゆっくりと歩み寄ると、樹から花を分けてもらい、飾り付けていく。

「お元気でしたか?」

「あぁ・・・話は聞いたと思うが、この開門式が全て終えた後、私は王位につく事になっている。そのせいか、色々と忙しくてな」

「そうでしたか・・・」

樹は小さな声でそう答えると、王子と一緒に花を並べていく。

「・・・即位と同時に王妃を迎ええる事になった」

「・・・・・」

「覚悟はしていたが、やはり気は晴れないものだな」

王子はそう言うと、手を止め、像を見上げる。その眼差しは寂しそうでいて、まだ美緒を想っているかのような愛おしそうな眼差しだった。

「・・・・樹殿」

「はい・・・」

「実は先日、不思議な夢を見てな」

「え・・・?」

「美緒殿が現れたのだ」

ゆっくりと顔を樹に向けながら、王子は微笑む。

「樹殿、そなた、加護を受けているそうだな」

その言葉に樹はギクリとする。誤魔化した方がいいいのか、でも、なんて言えばいいのか・・そんな考えが頭をグルグルと回る。

そんな不安が顔に出ていたのか、王子がふふッと笑う。

「大丈夫だ。美緒殿に散々怒られたからな。樹殿に手を出すつもりはない。それに、これから獣人国と手をとる事で国は大きく繁栄する。もう聖女だけに拘る必要もなくなってくるはずだ。私がさせない」

「王子・・・・」

「美緒殿がな・・・ありがとうと言っていた。薄々ではあるが私の気持ちには気付いていたと・・・だが、想い人がいたし、いずれ帰りたいと望んでいたから、心を許すわけにいかなかったと。それから、表立っては出来なかったが、いつも美緒殿の味方をしてくれているのも気付いていたと言っていた。

想いを寄せてくれてありがとうと、味方になってくれてありがとうと言っていた」

「そうですか・・・」

「樹殿・・・美緒殿は想い人には会えたのだろうか?」

「はい・・・体を戻した事で会えたと言っていました。実は、僕も夢で美緒さんに会いました。元々側にいるような気配はしていたのですが、僕があまりにも塞ぎ込んでいたから、声が届かなかったと言っていました」

「もう、体調はいいのか?」

「はい。沢山の人達に支えていただきました。特にレイにはずっと寄り添ってもらいました。おかげで美緒さんと、僕の一番愛しているおばあちゃんにも会う事ができました」

「そうか・・・」

「王子、美緒さんは少なからず王子を敬愛していたのは本音だと思います。覚えてますか?人間国でのパーティで三人で話した時を・・・」

「あぁ・・・」

「美緒さん、王子とあんな風に笑って話したのは初めてだと言ってました。思えば、美緒さんの話を聞いてくれるはいつも王子だけだったと、それは感謝していると言ってました。囚われている時、王子の話を少ししたんですが、もう少し王子に心を開いて仲良くすれば良かったと後悔してました。無事に戻れたら、真っ先に王子と話がしたいとも言ってました」

樹の話に王子は手を握りしめる。樹はそっとその手を取り、王子を見上げる。

「きっと美緒さんは王子の幸せを願っています。だから、そんなに悲しまないでください。いつか、心穏やかに美緒さんを想う日が来ます。少し時間はかかるかもしれませんが、王子には美緒さんの加護が付いているのできっと幸せになれます」

「加護とは・・・?」

「王子、その腰にある剣に付いてる小さな網紐の飾り、美緒さんからもらいませんでしたか?」

そう言われ王子は腰にある剣を見つめ、ハッと気付いた様に樹を見つめる。

「美緒さん、言葉にしなかったかもしれませんが、この飾りには美緒さんの祈りが込められています。王子が健やかに毎日を過ごせる様にと・・・きっと、この条例が決まり、国が騒がしくなった事で王子が騒動に巻き込まれ、怪我などをしないようにと祈りを捧げたのだと思います」

樹の言葉に王子は目を潤ませる。

確かにこの飾りは、獣人国の訪問後に美緒から何も言わず持たされたものだった。

護衛の騎士にも配っていたから、ただついでにくれたの物だと思っていたが、美緒が祈りを込めてくれていたという事実が何よりも嬉しかった。

「王子、美緒さんは人は生まれ出た以上、誰にでも幸せになる権利があると言っていました。どうか、幸せになってください」

王子は一粒の涙を流し、像を見上げた。

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