第66話 その先へ

翌朝、朝食をしながら開門式が決まったとレイが樹に告げる。

その時に美緒の追悼式もあげたいと、人間国から申し出があった事を伝えると、樹は満面の笑みを浮かべて喜んだ。

日取りは3ヶ月後。

式は三日間にわたって行われる事もあり、一週間後に必要な人材が互いの国から派遣される。その間と当日の警備をレイが取り仕切り、樹は街での設営や催しを担当する事になった。

催しについては樹に全て任せると、互いの国から全特権を樹に託され、樹の補助にジュリアンナが着く。

互いに忙しくなるが、くれぐれも無理をするなとレイから念を押される。

それから、レイは出かける前に話があると、樹を寝室に連れて行く。


寝室に入るとレイは樹を椅子に座らせ、自分は樹の前で膝を着き、樹の手を取り見上げる。

「樹、昨夜の話だが・・・」

「昨夜?どの話?」

キョトンとした顔でレイを見つめると、レイは少し顔を赤らめながら樹を見つめる。

「番の話だ」

「あぁ・・・でも、僕達の結婚式はまだまだ先でしょ?開門式が三ヶ月後で、その後、それぞれの国で門を取り払うセレモニーがあるから、少なく見積もっても半年以上先だ・・・・長いなぁ・・・」

「そうだな。私としても一日でも早く挙げたいと思っているが、周りが落ち着かない事には・・・・いや、その事もあるんだが・・・」

「他に何があるの?」

「その・・・あれだ。樹が前に言っていたマーキングの話だ」

「あっ・・・・」

レイが言わんとする事がわかり、樹も顔を赤らめる。

「番の印はそのマーキングをする際に付ける。その・・・樹の中に子種を注ぐ事がマーキングになり、その時に首の後ろを噛む事で番が成立する。

元々獅子や似たような種族はマーキングの際に首の後ろを噛む。一度噛めば、成立するからその後は自由なんだが・・・それでだな、本来なら初夜に行うのだが、これからいろんな獣人や人間が行き来する事になる。その前に、樹にマーキングをしたい。良いだろうか?」

レイの真っ直ぐに見つめる目に、樹はますます顔を赤らめるが、小さな声でうんと答える。その答えにレイは顔を明るくして、樹を抱きしめる。

「良かった・・・断られたらどうしようかと思っていた。その、樹もまだ体調が戻ってないから先でいいと思っていたが、樹が昨夜、早く番にして欲しいと言ってくれたのを聞いて、私も我慢したくないと思ったのだ」

「我慢しなくていいのに・・・それに、マーキングの話は僕からして欲しいと言ったでしょ?でも、レイが・・・」

モゴモゴと話す樹に、レイは体を離し、また樹をじっと見つめる。

「あぁ。樹は人間だから私を受け止めるのに、準備がいる。ゆっくりでいいと思っていたが、私は樹を抱きたい。だから、今日から準備を始めないか?」

「えっ?今日から?」

「あぁ。必要な物は私が用意する」

「必要な物って・・・?」

「まぁ・・色々だ。と、とにかく、話は終わりだ。仕事行ってくる」

レイは樹の髪にキスを落とすと慌てて部屋を出ていく。しばらくの間、呆然としていた樹は沸々と湧き上がる恥ずかしさに、ベットで悶える事になる。


その日の午後、ジュリアンナが邸宅を訪れたので、樹は邸宅の皆を集め、レイから聞いた準備の話をする。補佐としてジュリアンナに改めて依頼をすると、快く引き受けてくれた。

そして樹はテオを含めた邸宅の使用人に、みんなにも手伝って欲しいと頭を下げた。

それからジュリアンナの提案で、近い内に中間街の皆を集めて話し合いをもつ事にした。

それぞれの国から使いが来るという事は、街で滞在する人達の住む場所や食料の確保などをしなくてはならないからだ。式典などをどういう形にするかは、来てから決めようと持ちかける。樹は一生懸命メモを取りながら、皆の意見を聞く。

そんな樹の姿を見ながらジュリアンナが微笑む。

「ねぇ、樹」

「はい?」

「私達は式典の方を受け持つから、あなたは追悼式を担当してくれない?もちろんあなたが全体の決定権を持っているから、最終的には式典の方も樹の意見も取り入れるし、互いに協力する所はするけど、聖女様をよく知っているのは樹でしょ?

生前、聖女様が何が好きだったか、どんな方だったか、それを思い出して彼女が喜びそうな物で埋め尽くすの。追悼はね、それを見て、皆が聖女様がどんな方で、何が好きだったのか知る機会でもあり、懐かしみ愛おしんで、その人を思い偲ぶ機会でもあるの。樹ならできるわよね?」

樹はジュリアンナを見つめ、ジュリアンナの言葉を心で繰り返す。

そしてポツリと漏らす。

「懐かしみ愛しんで、思い偲ぶ・・・・僕、やってみたいです」

その応えにジュリアンナは、樹の髪をやさしく撫で、あなたならできるわと呟いた。

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