第64話 会いたい

樹が眠り続けて一週間が経った。

それでも目を開けない樹に、レイは不安げに寄り添っていた。

カルド達もそんなレイの姿を心配していたが、見守る事しか出来ずにいた。

それから数日が経った頃、樹はゆっくりと目を覚ました。

レイは涙を流し、樹を抱きしめる。樹はレイの背中に手を当てて、帰りたいと呟いた。

「レイ、テオやジュリアンナさんに会いたい。みんな無事なんだよね?」

「あぁ。少し火の手は上がったが、住民もテオも、ジュリアンナ達も無事だ」

「良かった・・・もう誰もいなくなって欲しくない。レイも僕の側からいなくならないで・・・」

「もちろんだ。ずっと樹のそばにいる」

「レイ・・・帰ろう・・・」

「あぁ。すぐに馬車を用意する。だが、もう少し抱きしめさせてくれないか?

このまま目が覚めないのではないかと怖くてたまらなかった・・・。樹、私の元へ帰ってきてくれてありがとう。樹、愛している」

レイはそう樹に囁くと、樹の温もりを確かめるかのように強く抱きしめた。

樹も手を伸ばし、レイを抱きしめる。

「心配させてごめんね。僕もレイを愛しているよ」

樹の言葉に、レイは涙を流しながら強く、強く抱きしめた。


数時間後、樹を抱えたレイはカルド達のいる執務室へと向かう。

レイに抱えられた樹を見て、カルド達は目を見開き喜んだ。

樹は心配かけましたとレイに抱えられながら挨拶をする。

それから、家に戻りたいですと告げた。

「テオやジュリアンナさんに会いたいんです。無事なのは聞きましたが、どうしても会って自分の目で確かめたくて・・・」

樹の言葉にカルド達も優しく微笑み、すぐに馬車を用意すると言葉を返す。

数分後、馬車が到着し、樹はまたレイに抱えられて馬車へと向かう。

乗り込む前に、カルド達へ元気になったら手紙を書きますと告げ、その場を後にした。馬車の中でレイの膝の上で、レイに包まれながら樹は微笑む。

笑顔を見せた樹にレイは安堵して、レイもまた微笑み返す。


邸宅に戻ると、樹の帰還をしらされていたテオ達が顔を揃えて樹を迎えた。

その中にはジュリアンナとラルフの姿もあった。

テオとジュリアンナは涙を流しながら樹に駆け寄ると、樹もまた声を漏らし涙を流す。

「みんなが無事で良かった・・・」

樹はそう呟いて、両手を伸ばすとその手をテオとジュリアンナが掴み、お帰りなさいと言葉を返す。少しの間、再会を喜び合うとレイが口を開く。

「すまないが、樹は長い間床に伏せていて、目覚めたばかりだ。自分で起きる事もままならない。このままベットに運ぶから、話はその後にしてくれないか。

それからジェフ、樹に粥を作ってくれ。床に伏せていた間、何も口にしていない。

目覚めてすぐに皆の顔を見たいから帰りたいと言っていたから、城でも何も口にしていないのだ」

「すぐに作ってお持ちします」

「僕は果実店に行って、樹様の好きな果物を買い揃えてきます」

テオはそう言うと、玄関を飛び出していく。ジェフも慌ただしく、他の使用人と台所へと向かう。

「ジュリアンナ、ラルフ、すまないがしばらく樹を頼めるか?私は一度、護衛舎に行き、戻ったことを伝えてくる」

「わかりました。息子の面倒はしっかり私達で診ていますので、安心して行ってきてください」

ジュリアンナの返事にレイは頷き、樹を寝室へと運ぶ。

そっとベットに横たわらせると、樹の髪を撫でる。

「一時間ほどで戻る。その間、ジュリアンナ達に甘えさせてもらえ。しっかり粥も食べるんだぞ」

「うん・・・でも、レイも早く帰ってきてね。僕はレイに甘えるのが一番好きなの」

樹の言葉にレイの目尻が下がる。

「ねぇ、レイ。僕に行ってきますのキスして」

「あぁ。行ってくる」

レイは微笑みながらそう言うと、樹にキスをする。それから何度も髪を撫で、部屋を後にした。レイが部屋を出てから数分後にジュリアンナ達が部屋に入ってきて、2人で樹のそばに腰を下ろし、樹の頭を優しく撫でる。

「頑張ったわね、樹。帰ってきてくれて、嬉しいわ」

ジュリアンナはそう言いながら樹に微笑む。樹も目に涙を浮かべ、微笑み返すとラルフがその目元を拭う。

「もう泣くのはやめなさい。目が落ちてしまうよ。それに樹がいつまでも泣いていると悲しむ人がいる事を忘れちゃダメだ。泣くのはほんの少しにして、今度は微笑まなきゃダメだよ」

樹は小さく頷いて、早く元気になりますと答えた。

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