第62話 悲しみの雨

城へ辿り着き、美緒が手当されている部屋まで行くと、慌ただしく医者や神官が美緒を取り囲み、樹はそばに行けずにいた。

レイは何も言わず、樹を抱きしめ続けた。樹もレイの胸の中で震えなが泣き続けていたが、思い出したかの様に顔をあげる。

「レ・・・レイ・・・」

「どうした?」

「あ・・あの人達・・・中間街に・・・火・・・火をつけるって・・・」

嗚咽混じりに樹はレイへと必死に伝える。

「ど・・・どうしよう・・・もし、まだ・・・仲間がいて、街に向かってたら・・・レイ・・街のみんなが・・・テオが・・・」

震えながら伝える樹を抱きしめながら、レイは側にいた護衛達に急いで中間街へ向かうように命令する。

「人間国の騎士も連れてなるべく多くの人数で街をくまなく探せっ!中間街には王達もいる。街の住民と王達を守るのだっ!」

そう叫んだ後、樹の頬を両手で包む。

「樹、私も行かねばならぬ」

「う・・・うん。みんなを・・・テオやジュリアンナさん達を助けて・・」

「あぁ・・・街の安全を確認したらすぐに戻ってくる。美緒殿はきっと大丈夫だ。樹、気をしっかり持つんだぞ?」

樹は震えながらも何度も頷き、レイも無事に帰ってきてと告げると、レイは力強く頷き、樹の額にキスをする。

「行ってくる・・・」

レイはそう告げて、走り出す。その後ろ姿を見ながら、樹は手を組み祈りつづけた。

(神様・・・ううん、おばあちゃん・・・僕のそばにいるよね?みんなを助けて・・・)

そう祈りながら、静かに涙を流し続けた。


「樹様、聖女がお呼びです」

どのくらい時間が経ったのか、神官に名前を呼ばれるまで蹲り座っていた。

よろよろと体を持ち上げながら足を進め、美緒の元へと歩く。

ベットの上では美緒が樹の姿を見て、力なく微笑んでいた。

「み・・・美緒さん・・・もう・・・大丈夫なんですか?」

樹の問いかけに美緒はゆっくりと首を振る。樹はまた涙を流しながら美緒を手を握る。

「樹くん・・・怪我はない?」

「美緒さん・・・僕は・・・僕より美緒さんが・・・」

嗚咽を漏らす樹に美緒は優しく微笑む。

「樹くん・・・忘れないで・・・あなたは幸せになるべき人よ。私の分まで笑顔で生きて・・・」

「そんな・・美緒さん・・・僕と、僕と約束したじゃないですか・・諦めないって・・・」

「そうね・・・約束守れなくてごめん・・・でも、体は無理でも、きっと魂は彼の元へ帰れるわ・・だから、泣かないで・・・」

「ダメです・・・体も一緒じゃないとダメです・・・彼が悲しみます・・」

「でも・・・もう無理みたい・・・樹くん、幸せになるのよ。いつまでも笑ててね・・・」

美緒はそういうと微笑んだまま、ゆっくりと目を閉じる。そして、樹の手を握っていた美緒の手がするりと抜けた。

「ダメ・・・ダメだよ、美緒さん・・・美緒さんも幸せになるんでしょ?目を開けて・・・お願い・・目を開けて・・・」

樹の声も届かず、美緒は微笑んだまま息を引き取った。

樹は声を上げたまま、美緒のそばで泣き続けた。

それは、レイが戻っても続いた。決して側を離れず、美緒の手を掴んだまま樹は泣き続けた。

そんな樹をレイも涙を流しながら抱きしめ続けていた。


樹が泣き続けて気を失うように倒れ込むと、レイはゆっくりと樹を抱き抱えた。

近くで静かに涙を流していた王子が、医者を呼ぶから近くの部屋で休ませてくれとレイに伝える。

レイは頷き歩き出すが、急に足を止め、王子へと言葉をかける。

「樹が目を覚ますまで、葬儀は待って欲しい。できるか?」

「あぁ・・・棺に魔法をかけて、寝かせておく」

王子の返事を聞くと、レイは頼むと告げ、樹を部屋まで運ぶ。

ベットへと樹を寝かすと、優しく髪を撫でる。すぐに医者が入ってきて、樹の容体を診ると、気力がなくなっているから目を覚ますのがいつになるかわからないと告げた。

レイは医者から薬を貰うと、医者が部屋を出た後、樹の隣に横たわる。

優しく髪を撫で続け、樹の耳元で名前を呼び続ける。

「樹、時間がかかってもいいから、目を覚ましてくれないか?私との約束を守ってくれ。決して逝こうとするな・・・」

そう言いながら樹を抱きしめる。

「美代子殿、樹を連れて行かないでくれないか・・・?私の側にいさせて欲しい。お願いだ・・・」

樹を抱きしめながら、レイは祈るように目を閉じる。

悲しみの雨が一日でも早く終わるようにと、樹の側を離れず、ずっと樹を抱きしめ続けた。

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