第58話 要求
城では示唆した貴族の姿はなかったものの、その男の家族、使用人までもが捉えられ尋問を受けていたが、誰もが関与を否定していた。
カルド達の騎士の中にも二名姿を消した者がいた事で、騎士達全員に聞き取りが行われていた。
そんな中、王宮の使用人が慌てて会議室へ入ってくる。
「王様、これがキッチンの裏門に置かれておりました」
そう言って手に持っていた物をテーブルに乗せる。そこには一通の手紙と包みが置かれていた。包みを開けると、聖女の証とされる大きめな水晶の付いたゴールドのネックレスと、美緒が樹にプレゼントしたリングが入っていた。レイはそのリングを握り締め、項垂れる。
王子もネックレスを手に取ると、そのネックレスを大事そうに摩った。
手紙には開門の書類を破棄し、この案件を取り下げろと書かれていた。
そして、獣人達をすぐに追い出し、互いの国の門を固く閉じよとも書かれていた。
その手紙の内容にカルドと王は頭を悩ます。
「レイ・・・私達は一旦この国を出よう。お前は姿を隠しここに残れ」
「そうだな・・・一旦帰るフリをして相手を油断させるのが得策だ」
カルドの提案に王が頷く。
「レイ兄の姿を隠すには、夜に出発した方が良さそうですね。騎士達の一部にはフードを被せ、判断付かないように行きましょう」
マルクがそう言うとカルドは頷く。
「こちらでは例の男と親しくしていた者達を尋問している最中だ。使用人の話ではこの案件を良く思っていない事を漏らしていたそうだ。カルド王、申し訳ない。目論見に気付かず敵を内に入れてしまった」
王がカルドに頭を下げるが、カルドはそれを制する。
「落ち度があったのはこちらもだ。まさか騎士の中に企てている者がいるとは、盲点だった。申し訳なかった」
カルドもまた頭を下げるが、王もそれを制する。そんな中、尋問していた騎士が部屋に入ってくる。
「王様、親しくしていた者達は関与を否定していましたが、例の男が国と中間街の間にある場所に小屋を建てたと漏らしていたそうです。どうやら男の趣味でその近くにある湖で釣りを楽しむために建てたようです。門には抜け道があってそこから度々抜け出しては釣りを楽しんでいたと漏らしていたそうです」
その話にレイは音を立て椅子から立ち上がる。
「レイっ!お前は元騎士団長だ。戦も経験しているならわかるであろう!早る気持ちもわかるが、私情に駆られ作戦を怠る結果がどうなるか、知っているはずだ!」
カルドのレイを叱咤する大声に、辺りは静まるがレイは唸り声を漏らす。
髪は逆立ち、今にも獅子の姿になりそうな出立ちに、カルドがまた声を上げる。
「レイっ!ここでその姿を晒す事は王として許さぬ!お前が冷静さを欠けることが2人の命にかかわる事が分からぬか!それに、万が一、お前に何かあれば樹殿は本当に1人になってしまうのだぞ!」
カルドの最後の言葉に、レイの唸り声は止み、逆立った髪の毛が落ち着きを取り戻した。
「レイ様・・・」
騎士団長が低い声でレイに声をかける。
「樹様はレイ様が傷付く事を望んでおりません。以前、樹様は私にお願い事をしていたのです。もし、万が一何かあれば、自分より王様やレイ様を守って欲しいと。
王様やレイ様は国にとっていなくてはならない人だから、もし、自分を守る為に無理をする時は止めて欲しいとおっしゃっておりました。特にレイ様は自分が傷を負っても自分を助けようとするはずだから、必ず止めて欲しいと・・・レイ様、我々も全力を尽くします。ですから、気をしっかり持って救出に力を注ぎましょう。そして、無事に助け出し、一緒に国に帰りましょう」
騎士団長の言葉にレイは悲しそうな表情を浮かべるが、すまなかったと言葉を漏らし、地図を持ってきてほしいと告げる。
その言葉にカルドは安堵のため息を漏らし、声を荒げた事を王に詫びるとすぐに作戦会議へと持ち込んだ。
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