第57話 人質

「レイっ!どういう事だ!?」

王宮に戻るなり、カルド達や王達が駆け寄ってくる。

「樹殿と聖女が連れ去れました・・・辺りを探したのですが、予め準備をしていた様で見つける事ができませんでした・・・」

王子が申し訳なさそうに俯いたまま、言葉を漏らす。

「兄上、連れてきた騎士達を貸して頂きたい。樹を・・樹をすぐにでも探さなくては・・・」

取り乱すレイに、カルドはしっかりしろと叱咤する。

「お前が取り乱しては対策も練れぬ。下手に動けば樹殿も聖女もどうなるのかわからないではないか」

カルドの言葉に顔を歪めながら口を噤む。

「王子よ。相手は誰なのかわかるのか?」

王が尋ねると、王子は顔を上げ口を開く。

「恐らく反対勢だと思われます。人間の足跡と、獣人の足跡がありました。例の結託した反対勢です」

「何という事だ・・・何故、今・・・話が漏れているのか?」

王のその言葉に周りにいた者達が顔を見合わす。

開門の事は、朝に決まったばかりで、会議に出た者しかまだ知らない。

だが、漏れているとなれば、反対勢が樹達を人質に取った理由がわかる。

「王よ。あの時、施設に行く事を勧めた貴族はどこにいる?」

カルドの言葉に王はハッと気付き、辺りを見回すが姿が見えない事に焦り出し、側近達にすぐに探して連れてくるように命令する。

「騎士団長、私達の兵の中でもいなくなった者がいないか、早急に確認してくれ」

カルドの命に、騎士団長はすぐに体を翻し、騎士を集めろと声を掛け走り出した。

「レイ、今は耐えるのだ。何か分かってからでも手立てをつければ、救えるはずだ」

ずっと黙ったまま俯いているレイの肩を寄せ、大丈夫だと何度も声をかけ続けた。


「樹くん、起きて」

美緒の囁くような声に樹はゆっくりと目を開ける。見慣れない場所に、体に視線を移せば縄で縛られていた。

「美緒さん・・・ここは?」

「わからないわ。でも、この状況は連れ去られたみたいね」

美緒の言葉に樹は青ざめる。

「心配ないわ。恐らく私達を攫ったのは反対勢よ。私達を人質にして開門の契約を破棄させるつもりなんでしょう。きっと今頃、王宮で皆が対策を練ってくれてる。だから、助けが来るまで気をしっかり持つのよ」

美緒が言い聞かせるように言葉をかける。樹は頷き、辺りを見回す。

そう大きくはない小屋に、部屋の外からは数人の声が聞こえる。しばらく様子を見ていた樹はある事に気付く。視界がぼやけているのだ。

慌てて首元を見ると、片方はレンズが壊れているが、ちゃんとぶら下がっているメガネを見つけて安堵のため息を溢す。

「良かった。メガネ、ちゃんとある」

その声に美緒が微笑む。

「今は付けない方が怖さが半減するわ。・・・と言ってもこれじゃあ、かけてあげれないけど・・」

そう言って笑う美緒の笑顔に、樹もそうですねと微笑んだ。

「美緒さんのおかげで少しは視力が良くなりましたが、まだまだ見えない事が多いんです。もし、逃げるチャンスが訪れた時、見えないままでは美緒さんの足手纏いになるから、メガネがあって良かった」

「樹くん・・・」

「それに、これはレイが初めて僕にくれたプレゼントなんです。レイの目によく似てる色だったので、僕のお気に入りです」

「そうだったの。そんな大事な物なのに、少し壊れてしまったわね」

「これくらいなら、きっと治せます。美緒さん・・・以前、僕とレイが古くからの知り合いじゃ無いかって尋ねてましたよね?」

「えぇ・・」

「実は、レイは昔、僕達の世界に来た事があるんです」

「えっ・・・?」

「その時はレイはライオンの子供の姿だったんですが、僕とおばあちゃん、レイの三人で半年近く一緒に暮らしたんです。レイは突然、ここの世界に連れ戻されて5年も会えずにいたんですが、ここに僕が来た事で再会できたんです」

樹は嬉しそうに美緒の顔を見つめて話す。

「美緒さん、王様は詳しく話さなかったと思いますが、帰る方法はあるんです」

「・・・・・」

「それに、王子が美緒さんを帰してあげたいって言ってました。だから、開門式を終えたら王子と一緒に獣人国に来てください。王様が美緒さんを帰してくれます」

樹の言葉に美緒は涙を流す。

「美緒さん、無事にここから帰りましょう。もうすぐです。もうすぐ婚約者さんの所へ帰れます。だから、まずは一緒にここから無事に帰りましょう」

樹は優しく、そして力強く美緒へと言葉をかける。美緒は静かに泣きながら何度も頷き、ありがとうと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る