第44話 未来
その日の晩、ベットの上で樹はぼんやりと考え事をしていた。
寝室の明かりを消し終えたレイがベットに入ると、樹は口を開く。
「ねぇ、レイ」
「どうした?」
「今日、レイに花を渡したライオンの子、覚えてる?」
「あぁ。ディランと言ったか・・・あの子は私が盗賊を捕らえた時に連れてきた子だな」
「そう。あの子、まだ4歳なんだ」
「そうだったな・・・」
ディランは獣人国の子だった。両親を早くに亡くし、親戚に引き取られていたがお金に困った親戚に売られた。
そう多くはないが貧困地域ではたまにある話だった。盗賊に売られたわけではないが、大抵は貴族に買われ、ずっと下働きをさせられる。
もちろん国では禁止されている事ではあるが、実際、そういう取引がされているのも事実だ。ディランは納屋で他の下働きと一緒に働きながら暮らしていた。
そこへ盗賊が現れて拉致された。
レイはこの事を王に報告し、親戚の元へ返すのは危険だと判断し、ジュリアンナに託すことを決めた。
最初は怯えと不信感からか言葉を上手く話せないでいたが、シスターやジュリアンナ、そして樹達の支えで少しづつ打ち解けていった。
「レイ・・・僕ね、ディランを養子にしたいと思ってる」
樹の突然の言葉にレイは体を起こし、目を見開く。
「レイは王族だから、血筋のない子供を養子にする事がダメなら諦めるけど、あの子、本当は優しくていい子なんだ。それに、獣人国でもあまりいないライオンの子供だ。他の子からは贔屓目に見られるかもしれないけど、あの子、今はだいぶ良くなったけど、いまだに体をビクつかせるの。きっと、今まで酷い目に遭ってきたんだと思う」
「だが・・・・」
「わかってる。愛情に飢えてるのは他の子供達も一緒だよね。1人だけを養子にとは難しいかもしれない。それに、僕達にはやらなくてはいけない事もあるし、結婚だっていつになるかわからない。だから、すぐにどうとかじゃないの。
獣人の番には性別は関係ないのは知ってるけど、同性同士だから養子を取って自分達の子供として育ててる人もいるって聞いた。実際、ここでもそうやって暮らしている家族もいる。だから、先の話としてレイに少しだけ考えて欲しかったの。
無理にとは言わない。2人だけでもいいけど、未来に僕とレイの子供がいたらきっと楽しいだろうなって思ったの」
樹はレイに顔を向けながら微笑む。
レイは体をベットに沈めながら、樹を抱き寄せる。
「そうだな。それもいいかもしれない。全ては色んな事が片付いて、結婚してからの話だから私もそれは頭の片隅に置いておこおう。私と樹の未来の為に」
樹の髪に優しくキスを落としながら、レイは微笑む。
「樹、私は樹が私との未来を考えてくれている事が嬉しい。早くその時が来るといいな。私が樹の願いを叶えてみせる」
「ふふっ、全部は無理だよ。でも、ありがとう。一緒に一つずつ叶えていこうね」
樹はレイの胸に頭を擦り付けながら、幸せそうに微笑む。
「あっ・・・」
思い出したかのように樹が声を漏らし顔上げると、レイがどうしたのかと顔を覗き込む。
「その・・・あの・・・・」
言いにくそうに言葉を濁していると、レイが頬に手を当て指でさする。
「あ、あのね。僕達、いつ結婚できるかわからないでしょ?」
「そうだな・・・」
「あの、それでね。その番になるって結婚したら番ってわけじゃないんだよね?」
「正式に番と呼ばれるのは結婚した後だ」
「そうだけど・・・・」
モゴモゴと口篭らせている樹に、レイは眉を顰める。
「その・・・聞いたんだけど、結婚しなくても、婚約者として獣人は相手にマーキングするって・・・・」
「・・・・・」
「前にレイが僕に匂いをつけてマーキングしたって言ってたけど、その時に他にも方法があるって言ってたよね?その・・・・そのマーキングはしなくていいの?」
樹の言葉にレイは低く唸る。
「・・・・・誰から聞いた?」
「肉屋のクマのおじちゃん・・・僕からレイの匂いがしないから、ちゃんとマーキングしてもらえって・・・・」
樹の言葉に今度は尻尾をパタンパタンと激しく打ち鳴らす。
「怒ってるの・・・・?」
「・・・・違う。樹には怒っていない」
レイは深いため息を吐くと、こめかみに手を当てしばらく黙りする。そして、ゆっくりと口を開く。
「いずれはしないといけないが、人間と獣人では負担が違う。だから、まだ樹にそんな負担を負わせたくない」
「・・・・そりゃあ、レイと僕は体格からして違うから、何となく予想はしてた。でも、誓いあった恋人の印でもあるんでしょ?僕・・・その、平気だよ。逆にみんなにレイの恋人だって自慢したい」
樹の言葉にレイは更に頭を悩ます。
「・・・とりあえず、以前と同じ方法で匂いは付ける。私としても樹が私の番だと知らしめたいし、余計な虫は付けたくない。その、樹が言っている方法だが、その、色々準備も必要だし・・・何より私は樹とは他人の意見に惑わされず、ゆっくり進みたい」
まっすぐ言葉を返すレイに、樹は頬を染めながらわかったと答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます