第43話 花嫁

翌日、レイと樹は中間街の門まで美緒達を見送った。

樹は美緒の手をぎゅっと握り締めた。言葉にできないが、とにかく無事で帰還する事、何かしら元の世界への手立てを見つけられる事を切に願いながら、樹は美緒をじっと見つめる。

美緒も樹の想いを感じ取ってか、静かに頷き優しく微笑む。

それからゆっくりと側に立つレイに顔を向けると、レイも無言のまま頷いた。

実際、獣人国で見聞きし、希望を持てたとしても美緒が元の世界に帰るのは決して安易ではない。

だが、美緒の想いを聞いている2人は少しでも美緒に希望を持っていて欲しかった。

使徒団や護衛達の姿が見えなくなるまで見送った樹は、レイにポツリと教会に行きたいと呟いた。樹の気持ちを察したレイは、一緒に行くと答え部下の元へ歩いていく。数分の間、部下と話したレイは樹の手を取って歩き始めた。



教会では樹の姿をみつけた子供達が樹の元へと駆け寄ってくる。

子供達の姿を見て、少し不安げな表情をしていた樹も顔を綻ばせる。

それを見たレイは安堵のため息を吐き、ジュリアンナ達に昨日話した事を説明してくると、隣のジュリアンナ宅へと向かう。

樹は子供達に少しだけ大事な人の安全を祈りたいから待っててと伝え、教会の中へと入っていく。

少し古びた教会の中は静まり返り、何故か少しだけ空気がひんやりと感じられた。

樹はゆっくりと女神像の前まで足を進めると、並べられた椅子に腰を下ろす。

そして、手を組み目を閉じる。


神様、美緒さんが無事に帰還しますように・・・それから、美緒さんを元の世界を帰してあげてください。

きっと優しい美緒さんの事だから、人間国でも聖女としての役目を十分にしていると思います。だから、頑張っている美緒さんを大好きな彼の元へ帰してあげて下さい・・・・小さい頃から頑張って生きてきた美緒さんに、どうか愛する人の元で幸せに生きる人生を与えて下さい・・・

樹は何度も同じ願いを繰り返し祈り続けた。

樹と似たような境遇で生きてきた美緒の為に、ひたすら祈り続けた。

幸せになって欲しい・・・ただ、それだけを祈り続けた。


「樹、何をしてるんだ?」

教会の側にある芝生の上で、子供達と楽しそうに話している樹にレイが問いかける。その声に樹は振り向き、レイの顔を見つめる。

ジュリアンナ達との話し合いが思ったより長引いていたからだ。

それだけ、今回の事が深刻だと言う事を示していた。

樹は、ニコリと微笑むとレイの側へと駆け寄り、手に持っていた花冠を見せる。

「子供達に花冠の作り方を教えてたの。昔、おばあちゃんが教えてくれたんだ」

「美代子殿に・・・とても可愛らしいな」

レイは樹の手元を見ながら、懐かしむように微笑む。

樹は花冠を頭に乗せ、似合うかと尋ねるとレイは目を細め頷く。

そんな2人を見た子供達が、近寄ってきて2人を取り囲む。

「ねぇ、ライオンのお兄ちゃん。お兄ちゃんは樹お兄ちゃんのお婿さんなんだよね?いつ、結婚するの?」

その問いかけにレイは困惑した表情を見せるが、樹は腰をかがめ子供達に微笑む。

「そうだなぁ・・・・僕も早くしたいけど、今、お兄ちゃんは国の為に大事な仕事をしている最中なんだ。だから、仕事が無事に終わったら結婚するよ。その時は、みんなも招待するから来てくれる?」

樹の答えに子供達は歓喜する。すると、レイのスボンを引っ張る子供がいた。

レイと同じライオンの獣人だが、毛色は茶色だ。

少し大きめな毛色と同じ茶色の目が、じっとレイを見つめる。

「・・・お兄ちゃん、コレ・・・」

小さな声でそう言って差し出した手には、少し大きめな一輪のピンクの花があった。

レイは屈んでその子から花を受け取ると、ライオンの子供はモジモジしながらレイへと口を開く。

「お兄ちゃん、プロポーズにはお花が必要なんだよ」

その言葉にレイはふふっと微笑み、そうだなと言葉を返した。

花を受け取ったレイは立ち上がり、樹の手を取り、樹を立たせる。

「プロポーズはもうしたが、みんなの前でもう一度誓おう。樹、私と結婚してくれるか?生涯をかけて樹だけを愛すると皆の前で誓う」

レイは手に持っていた花を差し出すと、樹は顔を赤らめながら受け取る。

「僕も生涯レイだけを愛します」

樹の言葉に子供達が大きな歓喜の声をあげる。

レイと樹は互いを見つめた後、腰に手を回し、みんなへと挨拶をする。

樹はレイにもたれかかりながら、呟く。

「なんか結婚式みたいだ。早くレイと番になりたいな。レイ、大好きだよ」

その言葉にレイは嬉しそうに微笑む。

「・・・・・レイ」

「なんだ?」

「嬉しいのはわかるけど、尻尾振りすぎ。ずっと僕のお尻叩いてる・・・」

呆れた声で呟く樹に、レイは慌てて尻尾を掴みながら誤った。

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