第42話 動き出す不穏

「ねぇ、レイ。美緒さんと本当は何を話してたの?」

部屋に戻るなり樹がレイに尋ねる。レイは少し戸惑った表情をしながら樹を椅子に座らせると、その隣に腰を下ろす。

「実は心配させるからと黙っていた事があってな。美緒殿から全てを話して樹にも状況を知らせておくべきだと怒られたのだ」

「黙ってた事・・・・?」

レイが言葉を躊躇う姿が樹の不安を誘う。

「どうやら人間国にも獣人国の話が伝わっていたようでな。それと、もう一つ人間国でどうやら樹の話が出ているそうだ」

「獣人国の話・・・?僕、何かミスしたかな?さっきも王子に色々聞かれたけど、頑張って上手く答えたよ?」

「・・・何を聞かれた?」

「僕の出生が人間国に無い事とか・・・あと、美緒さんに僕が似てるって・・・」

「そうか・・・」

レイはそう呟いた後、しばらく黙り込む。樹は心配そうな表情を浮かべ言葉を繋ぐ。

「僕、王様と話し合った時の様に答えたし、ジュリアンナさんに聞いた様に、僕は孤児だったから登録されてないって答えたけど、何か不味かったかな?」

樹の不安そうな声にレイはすまないと小さく漏らし、樹の頭を撫でる。

「そう言うつもりではなかったが、余計に不安にさせてしまったな。まず、獣人国での話だが、噂が出回っていて今回人間国との政策は、私が人間に惚れたから身内贔屓で立てられているという話なんだ。人間に惑わされたともな・・・恐らく反対勢がその噂を広めている。その事で不穏な動きがあると話を聞いている。

中間街に安易に入れないから心配する事はないと思うが、念の為に双方の入り口の警備を強化している。だから、樹も決して1人で出歩かないで欲しい」

「・・・僕やレイに危害を加えるかもしれないって事?」

「そんな事はさせない。樹には指一本触れさせない。だが、念には念をだ。テオや他の使用人には伝えてある。だから、常に誰かと行動を共にしてほしい」

「わかった・・・・じゃあ、人間国の僕の話って・・・?」

「それは美緒殿から聞いたのだが、やはり樹のその黒髪と黒目は人間国でもいないそうだ」

レイの言葉に王子が言っていた言葉を思い出す。

「王子も同じ事を言ってた。だから、あんなに聞いてたんだ・・・・」

「ここで最初の話し合いを持った時に、人間国の使徒団が樹の事を報告したら向こうの王達が興味を持ったそうだ。美緒殿と同じ異世界から来た人間で、特別な力を持っているのでは無いかと・・・」

「・・・・もし、僕がそうだとバレたらどうなるの?美緒さんは、勝手に連れて来らたのに聖女の仕事をやらされて、監禁では無いけど勝手に外に出たりは出来ない生活をしてるって言ってた。僕も・・・僕もそうなっちゃうの?僕、獣人国にも嫌われて、人間国にも狙われてるの?」

涙声で不安そうにレイを見つめる樹をレイは力強く抱きしめる。

「違うだろう?少なくとも私の兄弟も邸宅の皆も樹を大事に思っている。嫌ってなどいない。反対する理由をデタラメな事で正当化しているだけだ。

それに、人間国にも渡しはしない。樹は私の番で愛する人だ。誰にも奪わせない。ずっと私の側にいる。そうだろう?」

樹はレイの腕の中で鼻を啜りながら何度も頷く。

「心配いらない。ここには樹を愛してくれる人が沢山いる。みんなが守ってくれる。もちろん私もだ。だから、樹もしっかり気持ちを据えるんだ。美緒殿が樹に話すように言ったのは、樹は強いと信じているからだ。誰かを慈しみ、守ろうとする樹は誰よりも強いから、そばにいる者が信じてあげないでどうすると怒られたのだ。守るだけが全てでないと・・・。樹、不安は全て私に預けて、ただ私の側にいることだけを考えて欲しい。一緒に乗り越えよう」

「うん・・・僕、もっと強くなる。レイとずっといたいから強くなる。僕もレイとみんなを守る」

レイは樹を体から離し、樹の頬を両手で包み顔をあげる。

「あぁ。そうだ。それでいい。樹、愛してる」

「僕も・・・」

2人はそう言うと互いに微笑みあった。

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