第40話 期待と暗雲
2週間後、人間国の使徒団が訪問する日が訪れた。
中間街で獣人国の騎士代表と話し合いをする為、一泊を予定していたのもあって樹は美緒との再会を心待ちにしていたが、その使徒団が現れてからは一瞬にして重い雰囲気に包まれた。
尋常ではない数の護衛騎士が連なっていたからだ。
訪問してからすぐに会議が開かれ、そこには美緒と樹の姿もあった。
「初めまして。私はレイ・ローランドと言います。ここでは、警備隊の隊長を務めさせていただいています」
レイが席を立ち、深々と挨拶をする。
「初めまして。私は人間国の第一王子であるモナカ・シュタインです。あなたの話は聞いています。隣にいるのが伴侶となる婚約者ですね」
王子と名乗る人間に視線を向けられ、樹は慌てて席を立ち挨拶をする。
「初めまして。樹と言います」
樹の姿にモナカは微笑みながらも、樹の全身に視線を促す。
「黒髪に黒目ですか・・・」
その言葉にレイが反応し、すぐさま話を逸らす。
「獣人国、人間国での噂は聞いております。今日は警備をより強化する為に王宮の騎士団長にも来てもらっています」
そう言って紹介されたのは、あの邸宅に来ていた熊獣人の大男だった。
「我々の国では7;3で住民達の賛成を得ています。ですが、やはり残りの者達への警戒はすべきだとの王の判断で、警備を練り直し、万全な対策で準備をしています。中間街の入り口にはすでに騎士団も配置済みです」
「そうですか。我々の国では6;4といったところでしょうか。ですが、それもそちら側が訪問する前までにはもう少し住民への理解度を促すつもりです」
互いの話ぶりにただならぬ雰囲気を感じ、樹は心配そうに美緒を見つめるが、美緒は小さく頷きながら微笑んでいた。
会議が終わり、晩餐までの間、美緒からの申し出で樹の治療がしたいと2人きりで部屋に入る事が許された。
以前の様に樹をベットの横たわらせ治療をし終えると、樹はすぐに美緒へ問いかける。
「美緒さん、一体何が起こってるんですか?」
「そんなに心配しなくてもいいわ。ただ、やっぱり反対する者達がいるって事よ。最初からうまくいくわけないもの」
美緒は樹を安心させるかの様に、樹の頭を優しく撫でる。それでも、不安が拭いきれない樹はまた問いかける。
「無事に帰国されますよね?」
「えぇ。私は王子と同じくらい重宝されているから、警備も厳重なの。きっと何事もなく訪問を終えるわ。その時はまたここに寄るだろうから、その時はゆっくりお茶でもしましょう」
「・・・・はい」
「そんなに心配しないで。私はまだ諦めてないのよ。だから、何が何でも無事に帰るわ」
意気揚々と笑う美緒に釣られて、樹も笑みを溢す。それから、美緒の耳元で小さな声で囁く。
「そう言えば、レイが王様に美緒さんの事を話してくれました。それで、王様が美緒さんとの時間をどうにか作ってみると言っていました。本当は話せる事では無いけど、美緒さんと会ってみてそれからどうするか対策を練ってくれるそうです」
樹の言葉に美緒は目を大きく開け、それから満面の笑みを浮かべた。
その目にはうっすらと涙が浮かび、嬉しいという気持ちが溢れ出ていたが、周りに護衛達がいたので静かに、そして力強く樹を抱きしめた。
「ありがとう・・・本当は心細かったの。何も確証がないからもどかしくて辛かったの。これで希望が見えたわ。本当にありがとう」
涙混じりの小さな声に、樹も涙を浮かべ、美緒を抱きしめ返す。
少しの間、2人は無言で抱きしめ合った後、怪しまれないように平然と離れた。
「樹様、以前よりほんの少しだけ良くなっています。私より治癒能力が弱いから実感がすぐには湧かないと思いますが、根気よく治療して下さいね」
「はい。ありがとうございます」
2人はそう言葉を交わし、軽く笑みを溢すとまた後でと言い残し、美緒は部屋を出て行った。
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