第38話 しばしの別れ

「本日をもってレイ・ローランドを中間街の獣人隊隊長と任命する。これより中間街へ移り、任務を全うしてくれ」

王宮の玉座がある広間で、王であるカルドが剣を持ち、レイの肩にあてる。

レイは片膝を着き、頭を下げながら片手を胸に当てている。

「王命、しかと受け取りました。国の為、王の為、この命をかけて任務を全うする事を誓います」

レイの言葉に剣を下げ、カルドがふっと笑う。

「命を簡単に捧げるでない。その命は番に捧げる物だ。私は王である前にそなたの兄だ。しばし別れるが、またここに戻れるよう尽力を尽くす。この国とそなたの未来の為にここに誓おう」

「感謝します。私も兄や弟達に恥じない騎士であり続けます。どうか、健やかにお過ごし下さい。また会える日を楽しみしています」

カルドとレイは互いに顔を見つめ微笑み合う。側ではマルクとルドルフが寂しげな表情を浮かべ2人を見つめていた。


王宮の広場では騎士団が列を作り、馬車へと道を作ってくれていた。

馬車の前には樹が立っている。

「兄上、元気でいてくださいね」

「レイ兄、兄様の手紙に俺も手紙を混ぜますから、返事書いてくださいね」

ルカルドとマルクが目を潤ませ、レイに抱きつく。レイは優しく2人の頭を撫でるとそっと言葉をかける。

「兄上を頼むぞ。元気でな」

その言葉に2人はレイの胸の中で何度も頷く。レイはそんな2人に微笑み、そしてカルドへと視線を向ける。

「兄上、行ってきます」

「あぁ。レイ、人間は弱い。だからこそ、心から慈しまないといけない。あの優しき者が傷付かぬ様、しっかり守るのだぞ」

「はい」

レイは力強く返事をすると、体を返し、まっすぐに樹を捉える。

そして、ゆっくりと足を踏み出した。

樹の側に行くと、樹の目元は赤くなっていた。きっと邸宅での別れで涙したのだろうとわかるような表情だった。

樹は遠くにいるカルド達、そして騎士達に深々と頭を下げる。その姿は感謝と決意を伝える物だった。レイもその意図を察してか、王宮へ一礼すると樹の背中に手を充て、樹の手を取る。樹も頭を上げ、レイの手をぎゅっと握り返した。

そして、レイに促され馬車へと乗り込んだ。


馬車の中でレイの胸にもたれながら、いつまでもレイの手を握りしめていた。

レイは樹の肩を抱き寄せ、優しく抱きしめる。

「樹、不安か?」

「そうだね・・・不安じゃないとは言えない。でも・・・」

「でも?」

レイの問いに、樹は顔を上げレイを見つめる。

「僕にはレイがいる。それだけで安心する。レイ、僕、頑張るから。レイの支えになれるように、レイの番としてふさわしい人になれるように頑張る」

「樹・・・ありがとう。だが、決して1人で無理はするな。一緒に頑張ればいいんだ。その為の番の誓いだ。この先ずっと、2人で支え合い、2人で笑い合い、共に慈しみ合い、2人で生きていくんだ。ふさわしいとかも考えなくていい。樹は私にとってなくてはならない存在だ。ふさわしいとかはいらない。私は樹がいいんだ。樹が側で笑ってくれれば、それだけで幸せなんだ。樹、愛している」

レイの言葉に樹は満面の笑みを浮かべる。そして、そっとレイにキスをする。

「レイ、僕も大好きだよ。僕を見て微笑んでくれるレイの顔が好き。僕を好きだと言ってくれるレイが好き。強いけど優しいこの腕も好き。大きくて僕を包み込んでくれる温かい胸も好き。僕も・・・」

樹は言葉尻に顔を赤らめると、レイの耳元で小さく囁く。

「僕も愛してます」

そう言って、更に顔を赤らめ俯く樹に、レイはたまらないと言った表情で樹を見つめる。そして、抱きしめている腕に力を込める。

「樹、ありがとう。私の気持ちを受け取ってくれて、応えてくれてありがとう。私は幸せだ。幸せすぎてどうにかなりそうだ。樹、愛している。愛してる」

「うん・・・僕も幸せだよ。レイ、僕を好きになってくれてありがとう。僕に愛をくれてありがとう。僕、もう一人じゃないよね?ずっとレイと一緒だよね?」

「あぁ。1人じゃない。これからもずっと私が側にいる。私と樹、そして美代子殿はもう家族だ」

「うん、うん・・・ありがとう。レイ」

涙混じりの樹の声に、レイは体を離し、樹の顔を覗き見る。そして、樹の涙を拭うと樹にキスをする。

何度も何度も啄むようなキスをする。それは、まるで愛していると囁いているかのように、優しく樹の唇に触れていた。

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