第27話 解けた縁を結ぶ時

「樹、隣に座ってくれるか?」

邸宅に戻ってから昼食を済ませ、2人は部屋に戻る。

レイは長椅子に座り、隣をトントンと叩きながら樹を招く。樹もレイの言葉に誘われる様に椅子に腰を下ろす。

「樹、提案なんだが・・・・」

樹が腰を下ろすなり、レイは樹の手を取り、口を開く。

「とりあえず、中間街へ引っ越さないか?」

「でも・・・・」

「兄がこの提案を持ちかけるという事は、それほど中間街が混乱していて、このままでは人間国との溝が深まっていくと判断したからだ。

私はこの国の王宮騎士団の騎士団長だ。この状態のままだとどの道、調査を兼ねて近い内に中間街へ派遣される事になる。期間はどの位かはわからない。

その間、樹がここに1人で住むのは危険だ。だから、いっその事、一緒に中間街へ行こう」

レイの話が正しいのはわかっているが、樹は返事に戸惑っていた。

そんな樹を察してか、レイも口を閉ざすが、しばらくしてまたレイが口を開く。

「樹・・・それ以前に、ここに残るか?」

「・・・・レイ、本当に僕がここに残ってもいいの?」

心配そうに見上げる樹に、レイは優しく微笑み髪を撫でる。

「言っただろう?私は残って欲しい。側にいて欲しいと・・・」

髪を撫でるレイの手が心地よくて、樹は目を閉じ、その感触に浸る。

(僕の髪をこうやって撫でてくれるのは、おばあちゃんとレイだけだ。この感触はおばあちゃんと似てて、優しくて温かい。幸せになれた気持ちにさせる)

懐かしい感触を思い出しながら、それとはまた少し違うレイの感触が安らぎを与える。樹はそっとレイの手に自分の手を添えると、ゆっくり目を開く。

「僕、ここに残りたい。レイの手は僕を幸せな気持ちにさせてくれる。この温もりのそばにいたい」

真っ直ぐにレイを見つめ、レイの望んでいるであろう言葉を、自分の奥にあった本音を漏らす。

「でも、レイが望んでいる愛を返せるかわからない」

そう言葉を付け足す樹に、レイは笑みを溢し樹を抱き寄せる。

「ゆっくりでいいんだ。私も好きになって貰えるよう努力する。今の私は樹が側にいたいと言ってくれた気持ちの方が嬉しい。今はそれだけで、充分だ」

「うん・・・・僕も頑張る。レイとずっと居られるように、応援してくれてる王様や皇子様達のためにも、僕、頑張りたい」

「あぁ・・・そうだな。ありがとう、樹」

樹はレイの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。それに返す様にレイは抱きしめていた腕に力を込めた。


夕食後、レイは邸宅の使用人達を広間に集めて中間街へ引っ越す旨を伝え、危険や帰れない可能性もある事を考えた上で付いてくる者だけを、連れて行くと話した。

「いつかここへ戻る可能性もある。だから、無理してついてくる必要はない。残った者は、ここでこの邸宅を守ってくれ」

レイの言葉に戸惑いや不安の表情を浮かべ皆黙り込んでいたが、スッと一本の手が上がる。

「私は樹様と一緒に行きます」

その声の持ち主はテオだった。力強い声でレイを見つめ答えると、隣で不安そうにしていた樹を見て微笑む。その笑顔に樹は嬉しくて涙を浮かべる。

その後も数人が手を挙げるが、レイはまたみんなに声をかける。

「テオも含め、今一度、考えてくれ。これは本人だけの問題ではない。どのくらいの期間になるかわからないが、その間は家族とも会えない。だから、今夜から2日ほど皆に暇を出す。その間にそれぞれ家族の元へ帰り、答えを出してくれ」

レイの言葉に使用人達がざわめくが、そのざわめきを割くようにまたレイが言葉を放つ。

「それから、もう皆は知っていると思うが樹は人間だ。いずれ私の番にと思っている。王命を受けて中間街へ行くが、樹と番になるためにも敢えて引き受けた。それも考慮して欲しい。一緒に行く者は私と樹に仕えると言うことだ」

その言葉にざわついていた雰囲気が一気に静まりかえる。だが、その雰囲気にも負けずテオが拍手をして喜ぶ。

「レイ様、おめでとうございます。でしたら、私は尚更、樹様に仕えたいです」

歓喜の声を上げるテオに、樹は顔を赤らめ小さな声でまだ決まってないのに・・・と呟いた。レオはそれを見て微笑みながら、樹の肩を寄せる。

そして、耳元に口を寄せ囁く。

「テオもああ言ってくれているんだ。早く私を好きになって、番になってくれ」

その声に樹は更に顔を赤らめた。

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