第28話 解けた縁を結ぶ時
皆が留守の間に必要な物を準備させた後、レイは使用人達をそれぞれの家に帰宅させた。
テオは最後まで残ると言い張っていたが、樹に説得させられ渋々帰っていった。
使用人達がいなくなった邸宅はガランと静まりかえっていた。
「樹、しばらく不便だろうが我慢してくれ」
「ううん。僕には時間がたっぷりあるんだ。みんながいない間は、僕がご飯作ってあげる。それから、暗くなる前に僕が邸宅の明かりを付けて、レイを迎えてあげるね」
ベットのそばにあるサイドテーブルに眼鏡を置きながら、樹は返事をする。
それから、ベットに潜り込み、毛布を首元まで引き上げる。
一度は灯りを暗くして寝る練習を始めたが、使用人達がいない静かな邸宅を少しでも明るい雰囲気にする為、部屋の明かりをつけたまま寝ることにした。
レイはベット入ると、樹と少し距離を置いて寝そべる。
自覚して初めて一緒に寝る事に、少し後ろ冷たさを感じていたからだ。
だが、樹はレイのそんな気持ちを知ってか知らずか、レイの側に擦り寄り、以前の様に腕を絡ませる。
レイは体を強張らせ、微動だにせずに固まっていた。
「ねぇ、レイ・・・」
急に名前を呼ばれ、心臓が飛び出るくらい驚くレイを樹は一度眉を顰め見上げるが、何でもないと言うレイの言葉に安心して、またレイの腕に顔を寄せる。
「昔ね、おばあちゃんが糸の話をしてくれた事を思い出したの」
「糸?」
「そう、糸。人と人の間には見えない糸が沢山あって、それはいろんな意味のある「縁」の糸なんだって。僕とおばあちゃんは「家族の糸」、先生やご近所さん達とは「信頼の糸」・・・その中には友情だったり、愛しい人だったり・・・中には悪い糸もあって、誰にでも付いてる糸なんだって」
「縁の糸か・・・」
「僕とレイはどんな糸なんだろう?」
「私は・・・愛しい糸だと思いたい。一度は外れた糸だが、こうしてまた結ぶ事ができた。それは樹と美代子殿と同じ位、太くてより強い糸だと信じている」
「・・・僕、レイがいなくなった日、糸が切れたんだと思ってた。それと、僕とお母さんはきっと悪い糸で、あの家を追い出された時にそれも切れちゃったんだ。おばあちゃんが亡くなって、どんどん切れていく糸が僕は寂しかった。いつか先生達との糸も切れちゃうんじゃ無いかって怖かった。
だから、まだおばあちゃんとの糸が感じられている内におばあちゃんの所に行けば、この糸がおばあちゃんの所に連れてってくれると思ったの」
「・・・・・」
「切れてボロボロになった糸先は、また結び直してもすぐに解けてしまう。だから、僕はレイとの糸は切れてなかったと信じたい。ただ、解けただけで、また結んだら今度は絶対解けないように大事にしたいんだ」
樹の言葉にレイはたまらなくなり、樹を抱きしめる。
「今度は私が固く結んでやる。だから、樹も約束してくれ。その糸を切って、1人で逝こうとしないと。夕刻に兄には書簡を出した。明日には返事が来て皆が戻り次第、移動の準備を始める。
この先、何があろうと私が側で守っていく。だから、樹もどんなに困難が訪れても1人で悩まず、私を頼ってくれ」
切実なレイの声に、樹は何度も頷く。そしてレイを見上げ、力強く言葉を放つ。
「僕もレイを守る。昔、レイが言ってくれたでしょ?誰かを想う気持ちが心を強くするって。それに、懸命に明日を生きる僕は強いって。だから、僕は諦めない。レイの側で生きていく」
「あぁ。樹、約束だぞ」
樹の目を見つめ言葉を交わすと、レイはそっと口付けをする。樹は目をパチパチと瞬きすると、ポツリと呟く。
「もう聞かないんだね・・・・」
その呟きにレイは声を出して笑う。
「そうだったな。だが、もう遠慮はしない。使用人達にも宣言したし、兄もそのつもりだ。だから、尚更、早く樹を口説き倒さないとな」
「それは、レイが勝手に宣言したんでしょ!?テオなんか、手を叩いて喜んじゃって・・・これじゃあ、四方八方塞がれた気分だ」
「あぁ。周りから固めるのも私の戦略方法の一つだ。戦術とは違うが、私のやり方で攻めよう」
レイの腕の中でブツブツと不貞腐れている樹を見ながら、レイはいつまでも笑っていた。
翌朝、樹を1人で置いておくのは心配だから仕事を休むと言い張るレイと、大丈夫だから仕事に行って欲しいと言い張る樹のやり取りを、ひょこっと帰ってきたテオに宥められた。
テオは家族から了承を貰ったから、すぐに戻ってきたと話してくれた。
それからずっと樹に仕えると誓ってくれた。
樹は満面の笑みでテオに抱きつき喜んでいたが、レイはその光景を顔を引き攣らせて見ていた。
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