第25話 一緒にいる為に
「そなた、昨夜は楽しんだようだな?」
翌朝、謁見を申し出たレイは応接間で兄弟達と顔を合わせていたが、席につくなりカルドにそう言われ、顔を赤らめる。
「な、何故・・・・」
「護衛達が申し訳なさそうに報告しておったぞ。して、想いを遂げたのか?」
その言葉に顔を赤らめたまま、告げただけだと答える。
その表情にマルクとルドルフは目を大きく開き、呆然とする。
「わぁ・・・レイ兄のこんな顔、初めて見る」
「見たくなかった・・・」
それぞれが、感嘆の声と落胆の声を交えていると、レイは表情を切り替え、カルドへと真っ直ぐに目を向ける。
「正式に樹を迎えに来た。これから連れて帰る」
「樹殿はなんと?」
カルドの樹呼びに眉をピクリと動かすが、無表情を作り言葉を返す。
「まだ元の世界に帰る事も、これからの事も決めていません」
「お前への返事もか?」
カルドの言葉にまた眉をピクリと動かすが、しばらく間を置いた後、口を開く。
「私は樹を番に迎えたいと思っています。だが、樹は今まで私を家族として見てきたので、まだ番としての私への気持ちはありません。それでも、側にいたいと思っています」
真っ直ぐに答えるレイに、カルドはふっと笑みを溢す。
「今まで何に対しても動じない堅物で真面目だったやつが、自覚した途端、こう出るとは・・・嬉しいような淋しいような複雑な気持ちだな」
「揶揄わないでください」
その答えにも笑みを溢すカルドに、レイは眉を顰める。
「この数日、ルカルド達も含め、時間を持ち、樹殿と会話をしてきたが、樹殿が心優しく勉学にも熱心で、まっすぐな心の持ち主だとわかった。
過去の話も聞いたが、あの様な経験をしても折れずに生きて来れる樹殿は強い。まぁ、それだけ祖母の愛が深かったと言う事だが、それでもそれを素直に受け止め、小さな体で祖母を支えた姿は、レイが言うように敬愛に値する。そこでだ・・・」
カルドがルドルフに目をやると、ルドルフは小さく頷き、そばにあった封筒から書類を出すと目の前のテーブルに並べ始めた。
それと同時にドアがノックされ、樹が部屋に案内されてくる。
最初は体を強張らせていた樹だったが、レイの姿を見つけ、安堵の笑みを溢す。
レイもその笑顔を見て、優しく笑顔で返す。
その様子を三人が呆れ顔で見ていた。
「惚気は後にしろ。樹殿、レイの隣に座ってくれるか?これから大事な話をする」
カルドに言われ、樹はレイの隣に腰を下ろすと、心配そうな表情をする。レイは大丈夫と言うように樹の手を取り、握り締める。
「・・・・まったく。まぁ、いい。それより、私とルドルフとマルクで話合った結果を述べる。まず、レイと樹殿の番関係を認めよう」
カルドの言葉にレイの表情が明るくなる。
「ただし、それは樹殿が了承した場合だ。そなたの気持ちだけで進める事はできない。一歩的な気持ちでは番になる意味がない。それはわかるな?」
「わかっています。互いの気持ちが伴ってこその真の番だという事は誰でも知っている事です。私も樹の気持ちを無視して番になる事は望んでおりません」
レイはそういいながら、握りしめた樹の手を更に力強く握りしめる。
樹は黙ったまま、耳を傾けていた。
「それでだ。人間と戦争が終わってもう10年だ。私が政権を握り、人間と和解したのもそれくらいになる。そろそろ中間街の問題も解決していこうと思っていた」
「問題とは?」
レイの問いに、今度はルドルフが口を開く。
「兄様、これを見てください」
ルドルフは並べた書類をレイに見せると、レイは眉を顰め、その書類を捲っていく。
「見ての通り、中間街で拉致問題が出ている。恐らく帰れなくなった家族を連れ戻そうとした者が裏で取引をしているのだろうが、それに便乗して奴隷を目的に拉致る者達がいる。
先日、そなたが捉えた盗賊もその類の者達だろう。樹殿には辛い話だろうが、恐らく見つけるのがもう少し遅かったら、どちらかの国に奴隷として売られていたはずだ」
カルドの言葉にレイが怒りを露わにし、書類をグシャリと握りしめた。
「今までマルクと私が調べていたのですが、思ったより事が大きくなっていて、近々レイ兄様と話するつもりでした」
ルドルフの言葉にマルクは頷き、レイを見つめる。
「そこでだ。人間の国にも書簡を送り近い内に会議を開く予定だが、これを機に互いの砦を無くそうという案が出ている。その為に、まず、この国に人間の王族達を招き入れるつもりだ」
「それは・・・」
難色を示すレイに、カルドはため息を吐く。
「そなたは人間との戦にも参加しているし、歪みあった歴史も身をもって経験している。だからこそ、この案件がとても難しい案件だとわかっているはずだ。
そこでだ。レイと樹殿に提案がある。だが、その前に樹殿に尋ねたい」
カルドは身を乗り出し、樹を見つめる。
「樹殿はここに残りたいか?そして、レイの番として生きる覚悟はあるか?それがわからなければ、この提案はできない。それに、樹殿をここに残して置くにはそれなりの理由が必要だ。その理由は以前にも話した通りだ。わかるな?」
食い入る様に見つめるカルドの視線に、樹は囚われたまま離せずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます