第5話 可愛いおばあちゃん

「おばあちゃん、今日は僕もおばあちゃんもお休みだよ。ご飯食べたらレイも一緒に散歩に行こうか」

朝食を終え、皿を片付けながら樹が美代子に声をかける。

美代子はお散歩という言葉に嬉しそうに返事をする。

「いい天気だものね。そうだわ、公園に行きたいわね。樹ちゃんとよく行ったあの公園・・・・あら?思い出せないわ・・・どこだったかしら?」

頬に手をあて美代子は一生懸命考え始める。そこへキッチンから戻ってきた樹が美代子に声をかける。

「大丈夫だよ、僕がちゃんと覚えてるから。すぐに準備するから待っててね」

そう言って樹は奥の部屋へと走って行く。

その間、レイがおばあちゃんの側に寄り添って、樹が戻るまで美代子を見守る。

美代子と出かけるには、着替えやらオムツやらをバックに詰めないといけない。

手慣れた様子で樹はバックに荷物を詰め始める。

それから、美代子のお気に入りの帽子を掴むと、居間へと戻る。

キッチンで水筒に麦茶を詰めると、今度はレイのリードと服を手にする。

「ちょっと窮屈だろうけど、我慢してね。なるべく体に合うようにお店の人に聞いて買ったから、多分、大丈夫だと思う」

ペット用パーカーを着させ、小型犬用のリードを体に付け始める。

首元には先日買った首輪が付けられていた。

レイの目と同じ薄い青色で、金具はシルバーの首輪だ。

首輪には、名前と住所が印字されたタグが付いている。

「よし、準備できた。おばあちゃん、行こうか」

玄関まで美代子の手を引き靴を履かせ、リュックを背負うと、片手で美代子の手を、片手にはリードの紐を持ち、外へと出かけた。


家から徒歩で20分くらいの所に大きな公園が見える。

平日の午前中もあってか、人はまばらだった。公園に入ってしばらく行くと、屋根付きのベンチがあり、目の前には大きな池がある。

樹はベンチに美代子を座らせると、水筒のお茶を飲ませる。

レイにも小さなカップを取り出し麦茶を注いでやる。2人が飲み終わったのを見届けてから、樹もお茶を口にした。

「風が涼しいね」

髪を撫でる様に吹く風が心地いい。樹の言葉にレイも目を閉じ、風を感じていた。

樹はレイの耳元にそっと口を寄せ、小声で話しかける。

「ねぇ、レイ。君はここに来た時、どこにいたか思い出せる?」

「それが、住宅街だと言うのは分かるのだが、私の世界と違い、この世界の家はどれも似た作りだからか、よくわからないのだ」

樹の問いにレイは答えるが、樹は背を元に戻し、うーんと唸り始める。

「やっぱり、この辺りを色々探索しないといけないかもね。もうすぐ来月のシフト申請があるから、どこかで調整して休みを取るね。おばあちゃんは一緒に行けないから、どこかで時間作る」

「樹殿、そのような事をしなくても大丈夫だ」

レイは小声で樹に声をかけるが、樹は首を振る。

「レイにも大事な家族がいるんだし、騎士の仕事をしていたならレイの帰りを待っている人達がいるはずだよ。寂しいけど、早く帰れる方法を探さなきゃ」

樹の言葉に、レイも少し寂しさを感じるが、職務を放棄している現状と家族を想ってくれる樹の優しさにレイは力強く頷いた。

休憩を終え、また歩き始める。普通に歩けば一時間で充分まったりと堪能できる公園だが、美代子と一緒だとかなり時間がかかる。

小さな子供の様にいろんな物に興味を持ち、足を止めては観察したり、急に手を離して駆け出したり、池の柵から身を乗り出してはレイと樹に引っ張られるというアクシデントもあった。

だが、樹は嫌な顔ひとつせず、ずっと笑顔で美代子の手を握り続けた。

「おばあちゃんが昔僕に一つ一つ教えてくれたように、僕もこうやって足を止めて教えてあげたいんだ。僕は今のおばあちゃんも大好きだ。世界一可愛いと思ってる」

そうレイに話す樹の笑顔は、真っ直ぐに美代子へと注がれていた。

祖母と孫、母と子、先生と生徒・・・いろんな言葉が当てはまる。レイはいつまでも2人の笑顔を見ていた。それはまるで2人を守る騎士のように・・・

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