第2話 不思議な生き物

「わぁ・・・君ってこんなに綺麗なんだね」

ドライヤーで毛を乾かしていた樹は、手を止めて歓喜の声を漏らす。

洗っている最中は気付かなかったが、毛を乾かしてみると純白の毛並みに、目はシルバーがかったセレクトブルーで心なしか美男子に見える。

そして改めて見ると、猫だと思っていたそれは、どう見てもライオンの子供の様な姿をしていた。

「君・・・もしかしてライオンなの?どこかの動物園から逃げてきたの?」

答えるはずのない動物に向かって、眉を顰めながらも話しかける。

しばらくすると、そのライオンのお腹から人間と同じような腹の音がする。

「お腹空いたの?やっぱり、足りなかった?君、体大きいもんね。よし、じゃあ、何か作ってあげる。あ、おばあちゃんを起こしちゃダメだよ」

人差し指を口に当て、ライオンに向かってそう話すとキッチンへと向かう。

ライオンはその後ろをトコトコとついていく。

冷蔵庫を開け、何がいいかなと呟きながらガサガサと探していると、ライオンの方から声が聞こえる。

「肉・・・肉を食べたい」

その声に樹は手を止め、振り返る。

「驚かせてすまない。できれば肉を食べたいのだが、肉はあるか?」

そう聞かれ、樹は言葉を失ったままコクコクと頷く。

少し沈黙が続いた後、樹は自分の膝をつねると夢じゃないとぼやく。

「私はレイ。レイ・ローランド。こんな姿だが、普段は人型で過ごしている」

丁寧に挨拶をされ、樹も慌てて自己紹介をする。

「ぼ、僕は樹、澤根 樹です。おばあちゃんは美代子ミヨコといいます」

「樹殿、拾って頂き感謝する。私にもよくわからない状況で、ほとほと困り果てていたのだ。恩にきる」

「い、いいえ。あっ、お肉でしたよね?鶏肉ならあるんですが・・・生ですか?」

「いや、火を通して頂けるとありがたい」

「わかりました。急いで焼きますね」

樹は慌てて冷蔵庫から肉を取り出すと、包丁で食べやすい形に切り、簡単に味付けをし、焼き始めた。


美味しそうに頬張るレイを樹はまだ信じられないような顔で見つめる。

レイは全部平らげると美味しかったとお礼を述べた。

それから今までの事を話し始める。

「私はこことは違う世界から来た。元の世界では王都警備に所属し、第一騎士団の団長をしている。ここに来た日、いつもの様に城下町を見回りしていたのだが、怪しい者を見つけ追っていた際、気がついたらこの世界に来ていた。なぜ、ここに来たのか、そして何故、この姿なのか分からずに彷徨っていたら、周りの人に怖がられ追いかけられた」

「君・・・どう見たってライオンだもの。怖がるのは当然だよ。ねぇ、普段は人型だって言ってたけど、姿は変えれないの?」

「あぁ。この獅子の姿になるのは滅多にないのだが、どうしても元の姿に戻らんのだ」

「そっか・・・じゃあ、今、帰る方法もわからないんだね。その首にぶら下がっているのは何?僕、これを見て飼い猫だと思ったんだ」

レイの首からぶら下がる小さな石の付いたネックレスを指さすと、レイはお守りだと答えた。

「亡くなった母が身につけていたサファイヤを、チェーンだけ付け替えてお守り代わりに身につけている」

「そうなんだ。とても大事な物なんだね」

樹は微笑みながらそれを見つめた。その時、奥からガタンと音が聞こえ、樹は慌てて音のする方へ向かうと、レイもその後を追う。

「おばあちゃん、トイレ?」

「そう、トイレ。あら、猫ちゃんも起きたの?まぁ、随分綺麗になって・・・」

レイを見つけるなり満面の笑みで腰を下ろし、撫で始める。

樹はおばあちゃんの背中を摩りながら、先にトイレに行こうと声をかけると、おばあちゃんは頷き、立ち上がる。

寄り添ってトイレまで行くと、ドアの外で出てくるのを待ち、それからまたベットへと連れて行く。

「ねぇ、あなた。もう少し猫ちゃんを撫でていいかしら?」

懇願するおばあちゃんに樹は少しだけだよと微笑み、レイを抱き抱えそっとレイの耳元で囁く。

「ごめんなさい。少しだけ猫のふりをしててください」

レイは小さく頷くとおばあちゃんの膝に乗り、大人しく座る。おばあちゃんは嬉しそうな表情で優しく撫で始めた。

「この子の名前はなんて言うの?」

「レイだよ。おばあちゃん」

「レイちゃんと言うの?可愛い名前だね。レイちゃん、うちは貧乏だけどうちの子になるかい?」

おばあちゃんの問いかけに、レイは一鳴きし、手に頭を擦り付けた。

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