本の積み方、罰し方

イルスバアン

本の積み方 罰し方


本の積み方は3種類ある。


裏表紙を寝かせて重ねる「平積み」

本を立てて置く「面陳列」

本棚に背表紙を見せて入れる「棚差し」


梶井基次郎が檸檬を置いたのは平積み。

芥川賞に選ばれた本は面陳列。

無数の本がモルグ街の煉瓦のように隙間一つなく組まれ、力を込めなければ抜き出せない本たちの塊が棚差し。


5cmの隙間があれば、本が1冊入る。

一冊でも売るために、一冊でも多くの本に出会ってもらうために、壁は築かれ、兵隊のように一列に揃った裏表紙が読者の好奇心たる行進を阻む。


だが、読者を舐めてくれるな。

難攻不落の砦の先に、秘宝が眠ることを飢えた者は知っている。

名作に隠れた名作、マニアックな厚本、題目すら理解できない専門書。


本を発掘する、という言葉はそうして生まれた。

埃被った本を掻き分けてボロボロになった手が掴むのは、同じく埃被った本。

年代はどうだ、価格はどうだ、果たして一頁とて理解できるのか。


買ったことを後悔する。

家に平積みされた本は、書店の棚差しより罪深い。

だがそれは、読者が背負う罰。

壁となった本は、誰にも読まれず色褪せて、静かに再生紙源となるだけか。

そんな詰み方が本屋の数だけ繰り広げられ、本屋と共に滅び去った。


本屋は壁を作る敵なのか。

書店員は隙間があれば本を継ぎ足す補給兵か。

ならば味方は誰がいるのか。

そもそも何のために敵と味方が分かれるのか。


本はなぜ壁となるのか。

なぜ棚に仕舞われ、手に取られる芽を摘まれるのか。

分からないなら、摘みには抜(ばつ)だ。

差されたものは、抜かねばならなぬ。

本を棚から抜くその時、初めて表紙が読者の前に姿を見せる。


紙の匂いは濃厚だ。

文字はまだ色濃く表面に染み込んでいる。

めくるたび、頁が白帆を立てて視線は海原を巡る。

この頁は、誰かにめくられたことはあるのだろうか。

そんなことは分からないけど。



本は君に罰を受けるため


今日も罪に問われている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本の積み方、罰し方 イルスバアン @Ilusubaan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ