第8話
「おい、
「・・・・ああ。」
遊びに来ていた
「聞いておらぬではないか。張り合いがないなあ。」
「そもそも何をしに来たのだ、
特に用があったわけでもなく、他愛ない話をしに、少し寄ってみただけのはずだ。
「何とつれないことを言うのだろう。唯一無二の友ではないか。」
「唯一ではない。人を偏屈な者のように言うな。」
宮仕えを始めた時、敦隆とは
「何を言っても、ああ、としか返さぬ。上の空で、何に気を取られているのだ。まるで、恋わびているようではないか。」
ぶつぶつと文句を言いながら、自分の言葉にハッとしたように顔を上げる。
「もしや、そうなのか?先日の糸桜か?」
「そういうことではない。」
「珍しいことではないか、
「だから、そうではないと。」
糸桜の女のことは、ずっと心に懸かっている。もう一度逢いたい、もう一度声を聴きたい。その思いは、日を経るにつれ、強まるばかりだ。今までに文を交わした相手とは異なる、経験のないこの感情が何であるのか、自分でもよく分からずにいた。
「いずれの家の者であろうな。僅かな伴で北山を歩くのだから、高貴な家の姫ではあるまい。尼君のお知り合いか?」
「いや。」
自分もそう思ったから尋ねてみたのだが、大叔母の反応は芳しいものではなかった。
『あの糸桜を愛でていた女人ですと?まあ、
「隠部?何だそれは?」
「分からぬ。尼君に聞いても、知らなかったのなら忘れるように、と言われた。」
「気になるではないか。」
「ああ。気になっている。」
「白状したな。」
「また、北山を訪れてみてはどうだ?」
「もう、花は散っておろう。」
「しかし、その女人は尼君のことを知っていたのだろう?近くに滞在していると話していたのなら、その辺りでまた会うやも知れんぞ。」
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