いえばよかった
みみみ
一生片想い
好きだって言ったことはなかったけど、多分両想いだったと思う。だけど、だから何がどうってことじゃなかった。男同士だったし、友人としても彼のことは好きだったし。友人としてこれからも関係を築いていくんだと思ってた。
彼が死んだ。事故死。詳しいことは知らないけれど、信号を無視して突っ込んできたトラックに引かれたらしい。俺がそれを聞いたのは又聞きの又聞きで、ふんわりとした内容しか分からなかったけれど、それで良かった。葬儀にはちゃんと参列することができて、安心したのを覚えている。
葬儀で彼の母親が涙ながらに話す言葉を聞く。彼は良い息子だったらしかった。そうだろうなと思う。俺にとっても良い友人だったし。彼のことは好きだったが、彼の母親のことは別に好きでもなかった。というか、俺は彼の母親のことを何一つ知らなかったし、顔も葬式で初めて見たから、好き嫌いとかそういう次元には居なかったのだと思う。
彼のためのお経は聞いていても退屈だった。退屈を感じてしまう自分が少し恥ずかしかった。
そうして俺はいつもの日常に戻った。彼とは職場も違ったから、仕事の引継ぎとかそういうことも当たり前だけど一切ない。ただ日常がやってきただけだった。彼のことがいくら好きだったとしても、そんな彼が死んだ所で仕事内容が変わるわけでもない。俺は友人の死を会社の誰にも言わなかったから、誰も俺に気を遣うこともなければ俺を励ましたりすることもない。本当にただの日常がそこにはあった。
家に帰るなり冷蔵庫から缶ビールを取り出す。冷蔵庫の前で立ったまま缶を開けた。ぷしゅ、と音がする。一口飲んで、なんとなく飲む気分ではなくなってしまった。缶を台所に無造作に置く。何を食べる気にも、何をする気にもなれなかった。
スマホを見る。彼からの最後のメッセージは、二人で飲みに行こうというものだった。
なんだか悔しくなって、奥歯をかみしめる。俺が何を思ったって現実は変わらないのだけれど。
既読を付けたメッセージにはもう、返信も出来ない。
いえばよかった みみみ @mimimi___
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