クマドリ書店の刺激的ビフォーアフター

麦茶ブラスター

バ先の本屋、〇〇になる。


絶賛彼氏募集中、純然たるスーパー清楚JKの私は、いつものようにバ先のクマドリ書店に向かっていた。


自動ドアをくぐり、店内に入る。


ガー…


ジャラジャラジャラジャラ…

ティロリーン !!

ココカラハミギウチダゼェ

ァァァァ

キェェェェ

キュキュキュキュイン!キュキュキュキュイン!キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュイン!

ポォロポポポポペペペペピピピピピーペペペペペペペペー♪


「うっるさ」


うるさいよ、おい。開口一番に清楚崩れちゃったよ。


「お、いらっしゃーい」


私の清楚が危ぶまれているというのに、店長が気さくに声をかけてきた。


本人の前では絶対言わないけど、店長はすごいバナナ食べてそうな顔をしている。私が純然たるスーパー清楚JKなら、この店長は純然たるスーパーニシローランド店長、学名[店長=店長=店長]と言ったところだ。


「この騒音は何ですか?ついに猿山の王になったんですか?」

(いらっしゃいじゃないですよ。なんですかこのうるささは)


「思いっきり逆だけど、まあいつものことだから良いよ。ほら、最近お客さんが減ってきただろ?」


「確かに、若者の紙離れは深刻ですよね…」


「そう。だから、これだ」


本棚の前にはずらりとパイプ椅子。ここからはよく見えないが、本棚は本の代わりにモニターを埋め込まれて皆ピカピカと光っており、椅子に座った人たちはその前に座って下にあるレバーをひいたり叫び声をあげたりしている。


「パチンコ?」


「そう、パチンコ」



ーーバ先の本屋、パチンコ屋になる。



「名付けてパチンコ書店、ベアーバード」


店名、本当にクマとトリだったんかい。


「駅前のウィンブルには随分客を吸われてきたからなぁ…これぞコペルニクス的転回!」


なんで客層被ってると思った?

いや、確かに台?棚?埋まってますけどね。大盛況大盛況。なんで?


「まあ、君の言いたいこともわかる。だが、ベアーバードの台のラインナップ…台ンナップを見れば君も納得するだろう」


清楚な私はパチなんぞ打たんし、その略称をもう一度口にしてみろ。スーパー清楚ナックルを鳩尾に叩き込んでくれる。


「というか私昨日も学校終わりにバイト来ましたよね?その時は普通でしたよね」


そう、昨日はいつも通り、普通の書店だった。「あんま人来なくて楽ー」とか思いながら、まるごとバナナ(1房)を齧っている店長を尻目に退勤したのだった。


「ふっふっふ…そこが人生おもしろ劇場。紹介しよう、新人バイトのジム・オージムくんだ。BGM、カモン!」


テレテレテ〜 テレテレテ〜♪


「出た、新人紹介」


これはもうクマドリ書店の伝統になっている。


初日の新人はM○テの人みたいに音楽に合わせて階段を降りてくるのが決まりだ。


そんなわけで階段を降りてきたのは、筋骨隆々、腕から背中に向かって何本もチューブが伸びていて、頭にはネジが刺さっているなんか凄い男だった。


「ミュータント?」


「今日の朝から来てくれたジムくん、聞いて驚くなかれ、彼はなんと超能力者なのだ!」


「よろしくお願いシマース!タイプグリーンデース!」


「やばいって」


「ジムくんは宇宙人にキャトられ、その対価として超能力を授かったらしい。そして、ただの書店を簡単にパチンコ屋に変えてくれたんだ!」


現実改変者じゃんて。


「Meは、この力を沢山の人に役立てたくてここへ来ました。この程度の台ンナップ、お安い御用デース」


役立てたくてこんなとこ来るか?


「おかしいですって。私は本屋でバイトしたいからここにいるんです。パチンコ屋になるんだったらやめますよ」


「待て待て、さっきパチンコ書店って言っただろう?2階は普通の本屋だ」


「1階が煩い時点で無理です」


「ううむ、JK君を失うのはあまりに痛すぎる…オージムくん、申し訳ないがすぐに戻してくれないか?」


知らんうちに私めっちゃ重要視されてて笑う。昇給してくれよ。

店長の言葉を聞いて、オージムは悲しそうな顔をした。


「ワカリマシタ…タダシ、条件がアリマス」


昇給だろうな。


「このMe…ジム・オージムを倒せればNeeeee!!!!!!」


何だこいつ情緒不安定か?


「ハァ!Hangry Warm!!!」


空中に飛び上がったオージムの手から芋虫型のオーラが放たれ、私に襲いかかる。スペル間違えてるよ!そのキャラでスペル間違えちゃダメだろ!


「そもそもあの絵本の原題はcaterpillarだろ!」


私は落ち着いて、清楚ツッコミ受け流しによりスペルミスオーラの攻撃をやり過ごす。


「What!?ならば、One Stormy Night!!」


あっ、めっちゃ泣けるやつ!


オージムの手のひらから出てきたのはオオカミでも羊でもなく、ただの竜巻だった。これはいくら私でも、ブチ切れて当然と言える。


「原作へのリスペクトに欠けるその力…赦しておくわけにはいかない!」


手を十字に交差して、竜巻を抜ける。

目の前にオージムの姿を捉えた私は、右腕に力を集中させ、思い切り突き出す。


防御など間に合わせない。研ぎ澄まされた清楚は音すら置き去りにするのだから。


オージムの鳩尾へ、鋭い一撃。僅か2秒、たった一撃で決着は付いた。


「Oh…スーパー清楚ナックルin鳩尾…ポンポンペインね…」


呻き声を漏らすと、膝をつき床に倒れるジム。中々の強敵だった。



「さよならは言わないわ…たんぽぽの綿毛が風に吹かれていくように…人は変われるものだから…」


決まった。決め台詞。




…こうして戦いは終わり、私のJKらしい活躍によってクマドリ書店は元の書店に戻った。あと私は昇給した。



……だが、この出来事が、クマドリ書店が辿る壮大な改造のほんの始まりに過ぎなかったのであると、超スーパー清楚JKの私には、まだ知る由も無かったのだ…

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