めざせ犬又③
「猫又の始祖である猫の神様は日本のずっと遠くのエジプトってところにいるの。日本の初代猫又は経典をネズミから守るために猫を大陸から連れてきたときに紛れて来たのよ。」
「そんなに昔からいたんですね!」
「そうよ。」
アイはどうだ!とばかりにツンとすました。そして自慢げに続きを話し始めた。
「アタシ達のシロガネ様は日本でも有数の猫又なの。シロガネ様は猫又や猫を守るシステムを作り上げた偉大な猫又なのよ。」
「システム?」
「そう。猫が危険な目に会わないように猫のフリして、タマさんみたいに腕に覚えのある猫又が地域の見回りをしてるの。猫をいじめてる人間から猫を守ったり、人間を懲らしめたりしてるの。それに夜の野良猫の集会で危ない人間やそいつの居場所の告知や危険にあわないための啓発もしてんの。」
「すごいですね。喧嘩に強い猫と思ってたら実は猫又ってことがあるんだ!」
チーは驚いて目を丸くした。
「他にも活動してるの。上級の猫又は化けるのご上手でしょ。だから人間に化けて猫が暮らしやすいように活動してるのよ。例えば保護猫運動を起こしたり、人間は気がついてないけど最近の猫ブームも上級の猫又が影で糸引いてるのよ。」
「猫又が人間を操って?」
アイはウンウンと、何度もうなずいた。
「あ、でも犬は守ってもらえないんですよね。」
ガッカリしたチーは残念とばかりに思わずポロリと漏らした。
「そんなことないわよ。野良猫は多いけど、野良犬は減ったでしょ。目につかないだけで犬も助けてる。だいたい犬をいじめる人間は猫もいじめるからね。だからシロガネ様はアンタが犬又になりたいって願いも叶えたんじゃない。」
「そうなんですね。ありがとうございます!」
予想外のアイの返事にチーは嬉しくなった。
しかし、よくよく考えてみると喜んでばかりはいられない。
アタシ、そんなにすごいところに申し込んでしまったんだ。
チーは引き返せないところに来てしまったとビビった。
「そんなにすごいところとは。ちゃんとやらないとアタシまずいことになりますよね?」
不安げなチーを煽るようにアイは耳元でささやいた。
「そうよ。今度はアンタもやるっきゃないのよ。」
チーはガクガクと首を振った。
「で、どうしたらいいんでしょう?」
アイが話を始めようとしたところでガシャガシャと大きな音がした。
アイとチーが音のする方を見た。
「お兄たーん!出して!遊ぼう!」
さっきまでハンモックで眠りこけていたザビエルがケージにしがみついてガシャガシャと音をたてていた。
まもなくガチャリと玄関を開ける音がした。
「ただいま。」
周太郎がリビングのドアを開けて帰ってきた。周太郎は敏太郎の部屋をのぞいて敏太郎にただいまの挨拶をした後、2階の部屋で着替え、リビングに戻るなりザビエルのケージを開けた。
「お兄たーん!」
ザビエルはケージを出るなり、周太郎の肩にスルスルと上った。2人でしばらく遊んでいたが、周太郎はふと何かを思いついた。
「太巻き!」
周太郎の声がした。するとすぐ叫び声が聞こえた。
「やめりょー!キューン!」
ザビエルの叫び声に小声で相談をしていたチーとアイは驚いて周太郎とザビエルを見て言葉を失った。
周太郎は太巻き!と言いながら両手でザビエルの体を持ち、ザビエルの頭を口の中に入れようとした。ザビエルは食われまいと必死でもがく。
「周太郎、やめて!」
「アンタ、何してんの!」
チーとアイは目をむいた。しかし気にせず周太郎は口の中にザビエルの鼻先を突っ込んだ。
「ああっ!」
チーが噛みつこうと、そしてアイが周太郎を引っ掻こうと爪を出した。するとなにやら変な音が聞こえてきた。
「ククク、ククク。」
周太郎の口元から聞こえる音の方を見上げて、チーとアイはあんぐりと口を開けた。
ザビエルは手で周太郎の唇を掴み、中をのぞこうとしていた。たまらず周太郎が口から出すと嬉しそうにクククと鳴く。それ以降は太巻!をされるとどうぞ!とばかりに手足をだらりと下げ、口に入りやすいようにするザビエル。そしてクククッと嬉しそうな声を上げる。何度も繰り返して周太郎とザビエルは太巻きごっこで遊んでいた。それを見たチーはポツリとつぶやいた。
「コイツら似たもん同士。ついて行けない。」
傍らのアイもドン引き。
しばし、周太郎とザビエルの2人の世界に呆れていたチーとアイ。でもチーは思い出した。
「途中になりましたが、アイさん続きを。」
「バブは蒼汰にヤキモチを焼いてるでしょ。あれを利用するの。アンタはバブを煽るのよ。」
「煽る?」
何をするのかと首を傾げるチーに企みを告げた。
「ええ!そんなこと。できません。」
思わず、後ずさるチーにアイが顔を近づけた。
「アンタ、じゃあうちの家族を手に掛ける?」
アイはギラギラとした目で睨みつけた。
「それは…」
「アタシは嫌。アタシはおじいちゃんと家族を守るの。そのためならなんだってやるわ。」
尻込みするチーにアイは耳元まで大きく割けた口にドスの聞いた声でつぶやいた。
「アンタ、やるのやらないの、どっち?!」
チーはためらいながらも口を開いた。
「う、やります。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます