猫又への道③
アイは素早くチーのケージとザビエルのケージを開けた。恐る恐るケージから出てきたチー。アイは今まで見たことのない鋭い目つきでチーを睨みつけた。
「もうすぐ爺さんが2階から降りてくるんでしょ?ザビエルを爺さんのところへけしかけるの。アンタはザビエルが2階へ行くようにアタシと一緒に追い立てるのよ!」
アイの剣幕にチーはビビった。
「き、今日のアイさん、怖い…」
「当たり前でしょ!あたしを誰だと思ってんの?猫又なのよ!」
初級とはいえ猫又のアイの迫力にチーはちびりそうになるのを必死でこらえ、ザビエルがケージから出るのを待った。しかし先日、脅されてからザビエルはアイを怖がってハンモックから出てこない。
「ちょっとアンタ、サッサと出てきなさいよ!」
「い、嫌だにょ。お前、悪いやつ。怖いにょ。」
アイはしびれを切らしてザビエルのケージに頭を突っ込むとハンモックに噛み付いた。
「キュー!」
ザビエルは驚いてハンモックから逃げ出した。猫又の本性を出したアイの形相は鋭い目つきだけではなく、いつもと違い口が大きく裂け、爪も長く鋭く伸びている。アイの姿を見てザビエルはますますパニックになった。
「こ、怖いにょ〜!」
ザビエルは支離滅裂にリビングを走り回る。
「行け、チー!」
アイに命令され、ザビエルを追いかけるがチーは誰かを追いかけ回したことなんてない。
「あ、あ、ザビエル待って!」
ザビエルの後をただついて走るばかり。めちゃくちゃに走り回るザビエルはとうとう食器棚と壁の隙間に飛び込んでしまった。
「何やってんの!」
隙間を覗き込むチーのところへアイが駆けつけた。
「ザビエル、出てきてよ。」
「来るな!」
チーが困って頼み込むが怯えるザビエルはチーの声を聞き、ますます奥へ引っ込む。
アイはその様子にチッと舌打ちをした。
「ザビエルは使えないね。」
「じゃあ、今日はやめときます?」
チーは上目遣いで恐る恐るアイに尋ねた。
「そんな事出来るわけないじゃない。アタシ、シロガネ様に言われてるのよ。崖っぷちなのよ!」
アイが言い終わるやいなやバタンとドアの開く音がして、敏太郎が階段を降りてくる音がした。アイは自ら2階へ駆け上がった。アイの姿を認めた敏太郎は目を細めた。
「アイちゃん、来てたんか?」
「ニャ~ン。」
いつも以上に愛らしい顔になったアイは敏太郎の足元に頭をこすりつけた。
「アイちゃん、おじいちゃんは今からご飯だからね、危ないから向こう行って。」
敏太郎はアイを追い払おうとした。だがアイはしつこく足元に絡みついた。敏太郎が階段に足を置こうとしたところにアイが素早く体を割り込ませた。アイを踏みそうになった敏太郎はバランスを崩した。
「あっー!」
ダンダンダン!
敏太郎の叫ぶ声がして、階段を転がり落ちる音が盛大に響いた。
風呂場の窓を見に行った重子は窓が閉まっているのを見た。
「もう、どこから入ったのかしら?」
と言いつつ、周太郎が朝ご飯を食べ終わったことだしと、ついつい風呂掃除を始めてしまった。掃除をしていると敏太郎の大きな声と階段を落ちるような大きな音が聞こえた。重子は手に持ったブラシを風呂場に放り投げて脱衣所から飛び出した。
「どうしたの?!」
大きな音に驚いた重子が初めに、そして周太郎が階段下にやって来た。2人は階段下で丸くなって痛みに顔を歪め、唸り声をあげる敏太郎の姿に一瞬、声を失った。
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