猫又への道➁
「ギャー!」
次の朝、重子の悲鳴が轟いた。
「踏んじゃった!もうザビちゃんはなんでこんなところでウンコするの!」
重子はザビエルのウンコが付いた靴下を慌てて脱ぐと洗濯機の前に置きに行った。
「昨日の晩、寝る前にあんなところにウンコ、あったかしら?」
重子は首をひねりながらキッチンに戻った。朝ごはんの用意をしていると家族が続々と集まってきた。テーブルにつき、用意された食事をそれぞれがとっていた。
「周太郎、アンタ、来週受験だよね。何時に家を出るの?」
周太郎はトーストをもごもこと頬張りながら答えた。
「周太郎は来週、受験か。あれ?今何月だ?」
「おじいちゃん、今はAO入試っていって、冬になる前にできる受験があるのよ。」
重子は周太郎の皿を下げながら敏太郎に説明した。
「はあ、そんなもんがあるのか。まあ周太郎、受験頑張れよ。」
「ありがとう、じいちゃん。そろそろ学校行くわ。」
敏太郎にエールを送られ、周太郎は家を出ていった。
チーは重子に朝ごはんをもらいながら考えた。
受験って何?
ザビエルは知っているかも、とザビエルのケージを見るとザビエルはまだハンモックの中で眠っている様子。チーはアイに聞くことにした。
昼間、重子が買い物へと出かけたすぐ後、リビングの大きな植木鉢の後ろがぼんやり光り始めた。その中から顔をのぞかせたと思うと、アイはチーの前にストンと座った。
「アンタ、昨日の続きだけどさ…」
チーは頭をもたげアイの話に聞き入った。
「なんか、いい作戦ないの?」
「すみません、アタシ、なんにも思いつかなくて。」
アイとチーはお互いを見やるとため息をついた。
「そうよね。アンタなんかこの間まで世の中に出たことなかったんだし、人間をハメる方法なんて簡単には思いつかないわよね。あ〜あ、シロガネ様みたいに妖力があればなあ。」
アイはゴロンと横になり、毛づくろいとばかりに腹を舐め始めた。チーは困り顔のアイに尋ねた。
「アイさんは世の中のこと、よくご存知なんですか?」
「まあ、アンタよりはね。」
だったらとチーは今朝聞いた言葉を思い出した。
「受験ってなんですか?周太郎が今度、それをしに行くらしいです。」
「それはね、人間の子供は次に行く学校を決めるのにテストを受けるの。テストに合格したらその学校に行けるんだけど、そのテストのことを受験というらしいよ。」
「じゃあ、そのテストは大切なんですね。」
「そうよ。そう…」
アイは毛づくろいをふと止めた。
「フフ、それ、使えるかもね。」
アイの丸かった瞳孔はみるみる細くなった。
一週間後、AO入試の日がやってきた。いつもより早めに起きた周太郎はテレビを見ながら朝食を取っていた。
「ニャ~ン。」
重子と周太郎が声の方を見ると、普段なら昼過ぎににやって来るアイがどこから入っきたのかリビングにいた。
「あら?アイちゃんどこから来たの?また誰かお風呂の窓、締め忘れたんでしょ。」
困ったものだとブツブツ文句を言いながら重子はリビングから風呂場へと出ていった。
「アイちゃん、今日は早いね。でも俺、今朝は忙しいから相手できないの。ごめんね。」
周太郎の足にすり寄り、オヤツをねだるアイに声をかけると周太郎は制服に着替えるために自分の部屋へ戻った。リビングには誰もいない。そろそろ敏太郎が降りてくる頃。アイの目が光った。
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