第四章 猫又への道
猫又への道➀
ただ無為にチュールを口にする日々を過ごしたアイ。チーはおっかなびっくりの毎日を繰り返すうちに少しずつ鶴丸家に慣れていった。
そんなある日の夜、チーがケージの中のベッドでウトウトしているとリビングの大きな植木の鉢とタンスの隙間が白く光りだした。明るい光にチーは目を覚ました。光の中から久しぶりにシロガネがやって来た。
「アンタ、この家の犬になれたんだって?」
「はい、おかげさまで。」
「そう、でどうやって人間を懲らしめるか考えてる?」
「…あ、今慣れるのに必死で、まだそこまでは。」
「そんなことただろうと思ったわ。」
シロガネは後ろを振り向くと低くニャアと叫んだ。すると恐る恐るシロガネの後ろからアイが顔を出した。
「アンタ、どういう指導するつもり?」
シロガネがアイを叱りつけていると、人間は皆眠り込んでいるこの夜更けになにやら声が聞こえる。
なに?泥棒?
チーはケージを出て、音のする方へとソロリソロリ、足音を立てないようにしてのぞきに行った。真っ暗な中、ザビエルの眠るハンモックの中から音が聞こえる。
ザビエルの声?ケージに近づくにつれ、はっきり聞こえる。
「K太郎!K太郎!」
ザビエルはケージの天井から吊り下げられている一つ目小僧に抱きつくとハンモックに抱え入れている。一つ目小僧は体をゆすられると麦太郎!と声を立てるのだった。ザビエルは夜中じゅう一つ目小僧を揺すり、声を楽しんでいた。
「ちょっとアンタ、うるさいわよ。」
「遊んでくれたら止めてやるにょ。」
ザビエルはニタリと笑った。
ウッ。コイツと遊ぶのは嫌だ。
チーは困ったがザビエルは全く意に介さない。ひたすらK太郎!と一つ目小僧を鳴かせている。
シロガネさんがわざわざ来ているのに…
チーが困っていると後ろから威厳のある声がした。
「お前、うるさいな。」
振り返ると機嫌の悪いシロガネとシロガネに絞られてしおれているアイがやって来ていた。
「黙れにょ。お前たち…」
ハンモックから顔を出したザビエルはシロガネを見て固まった。シロガネは不機嫌な半目となり、
怒りのオーラが痛いほど刺さる。
「お前がザビエルか。アイから聞いたが、お前はすばしこいらしいな。」
そこまで言うとシロガネはさらに目を細め、その上鋭い牙をむけた。
「アタシたちは人間に復讐するんだ。お前も手伝え!」
「にょ、にょ、嫌だにょ。」
後退りしながらもザビエルは必死に拒む。
「アタシに逆らうとはいい根性じゃないか!覚悟はできてるんだろうね。」
ザビエルのケージの出入り口が勝手に開き、ザビエルはケージから見えない力で叩き出された。
「こ、こわいにょ!」
さすがのザビエルも震えている。
「怖いかい?じゃあ誰をやる?周太郎か?爺さんか?」
「お、お兄たんはダメ!」
「じゃあ爺さんか?」
「おじいちゃんはアタチのおもちゃにょ。」
「なんだ、誰をやるんだい!」
シロガネは顔を近づけ、ザビエルをにらんだ。
「…」
ザビエルはアワアワと言葉を失ってしまった。
「あ、あのシロガネさん、ザビエル漏らしてます。」
アイが横に回るとザビエルは細長いウンコを漏らしていた。
はあ、と息をつくとシロガネはザビエルから離れた。
「もういいわ。アンタはこの子達の邪魔をしないこと。いいね!」
シロガネに再度にらまれてザビエルはガクガクと首を振った。
シロガネはアイとチーをジロリとひと睨み。
「アンタ達、怠けてんじゃないよ。サッサとやりな!」
アイとチーは目をまん丸にし、息を殺してザビエルと同じようにガクガクと首を振った。シロガネはフン!と言うとあっという間に姿を消した。
シロガネが消えるとしばし、アイ、チー、ザビエルの3匹は呆然としていた。
ハッとしたアイは振り返った。
「チー、のんびりしちゃいられないよ。なんか考えないと。」
「そ、そうですね。」
アイとチーが部屋の隅に行き、コソコソと話し始めた。ザビエルは2人が自分に気が付かないようにとソロリとケージに戻り、ハンモックに潜り込んだ。
今夜は一つ目小僧は止めとくにょ。
ザビエルはギュッと目をつぶった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます