第36話 初めての経験④

初めての経験④


廊下で一部始終を見ていたチーも亀は初めて見る。なくなった亀の首には驚いたが何度か見ているとわかってくる。

アイツ、首を引っ込めたり、伸ばしたりできるんだ。世の中にはこんなへんてこな生き物もいるんだ!

ザビエルと亀の様子を見ているチーの姿をさりげなく見ていたアイはため息をついた。


コイツら亀も知らないの。アタシにはそっちのほうが驚きやわ。

アイはザビエルに見つからぬよう用心しながら台所の乾物入れを開け、煮干しをかじりながら、そう思った。


 亀をさんざん堪能したザビエルは階段を駆け上がるときちんと閉められていないドアを開けた。そこは鶴丸家の娘、小学生のみゆきの部屋。ザビエルは勝手知ったるこの部屋に忍びこんだ。

あ!またカワイイのが増えてる!

アタチのコレクションにしよう。

ザビエルはかわいらしいもの、とりわけピンクのオモチャが大好き。どれにしようかとザビエルが悩んていると階下から大きな声が聞こえた。

「ただいま!」

その声は小学校から戻ったみゆきのもの。タタタッと、階段を駆け上がりみゆきは部屋に飛び込んできた。

ハニャ!

みゆきは最近買ってもらったピンクのクマのキーホルダーを咥えているザビエルと目があった。

「ザビちゃんダメ~!」

みゆきがザビからクマのキーホルダーを取り返そうとするがザビエルも負けてはいない。

「返して!」

「キューン!アタチが先に見つけたんだ!返せ!」

みゆきはピンクのクマの手を持ち、ザビエルはクマの手に噛みついて引っ張りあい、ピンクのクマの取り合いになった。と、その時ザビエルは急に口を開けた。

「あっ!」

みゆきは後ろにひっくり返り、勢いでクマを放り投げた。ザビエルは素早くみゆきの横をすり抜け、クマを口に咥えるとドアの隙間から階下へ走り下りた。

みゆきが振り返った時にはもうすでにザビエルはリビングに置いてあるタンスと壁の隙間に細長い体をニョロニョロとくゆらせ潜り込んだ。そして人間の目を盗んでタンスの後ろの隙間に作った隠れ家の宝物置き場にクマと一緒に身を隠した。

「クククッ!クククッ!」

少しして、みゆきは2階から降りてくるとリビングの中を見渡した。

「あれ?ザビちゃんはどこ?」

しばらく探していたが諦めてリビングから出ていった。

ザビエルが2階からピンクのクマを咥えてリビングに飛び込んて来た時、ちょうどいつものようにアイがオヤツを目当てにチーのところにやって来ていた。

バタバタバタと階段から聞こえる大きな音にチーとアイは驚いておしゃべりを止めた。階段の方を見た途端、ピンクのクマを咥えたザビエルが目にも止まらぬ速さでタンスと壁の隙間に飛び込んだ。クククッ!と2回鳴くとザビエルはピタリと鳴くのをやめ、クマと一緒に隠れてしまった。

「え?今の何?」

「なんか、ザビエルのヤツ、ピンクのおもちゃを咥えてましたよね?」

あとからリビングに入って来たみゆきがザビエルを探している。アイとチーはザビエルはそこにいるよ、とはかりにタンスの前をあえて行ったり来たり。だがみゆきには二人の意図は伝わらない。とうとうみゆきは別のところを探そうとリビングを出ていってしまった。

しばらくしてザビエルがタンスと壁の隙間からヒョッコリと顔を出した。

「アイツ、もう行ったにょ?」

「ああ、行ったわよ。」

アイが呆れ気味に答えた。

「一体なにごと?」

「アタチ、みゆきの部屋でまたカワイイものを見つけちゃった。チーも行ったらいいよ。」

「見つけたって、それ、みゆきのものをアンタが取っただけでしょ。アンタ、本当馬鹿ね。」

チーは嘲るように言った。

「つまらないことは気にしない。アンタもアタチを見習えば楽になるにょ。」

ザビエルはサッサとケージに戻るとハンモックの寝床に潜り込んだ。

「何なんですかね!」

ご立腹のチー。しかしアイは黙って瞳孔を細くしてザビエルを見つめていた。

アタシ、こういう自分に正直過ぎて読めないヤツって苦手。

アイも頭を抱えた。

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