第34話 初めての経験➁
初めての経験➁
「よくわかんないからチーちゃん、シャンプーカットしてくるわ。」
急に抱き上げられて焦るチー。
「さあ美魔女になりましょうね」
びっくり眼のチーに声をかけて、重子はペットサロンへでかけてしまった。
チーがいなくなって、ザビエルはのんびり転がっていたアイに飛びかかった。
「何なの、この子!シヤッー!」
アイに噛みつかれてもザビエルはひるまない。
「アイ!もっともっと遊んでにょー!」
繰り返しアイに飛びかかった。アイとザビエルは互いに鋭い爪でひっかき合い、取っ組み合いになったままゴロゴロ転がっている。
怒ったアイが猫パンチを炸裂させようと腕を伸ばした。だが空振り。
「あ?おじいたーん!」
部屋に入ってきた祖父敏太郎に向かって、サビエルはアイを踏み台にして飛び上がった。
「うわ?なんだ?」
サビエルは素早く敏太郎の背後にまわり、背中によじ登った。敏太郎が背中を見ようと首をまわすも背中にしがみついたザビエルの姿は敏太郎には見えない。
「?」
敏太郎は先に読んだ夕刊を周太郎に渡すと、小首をかしげながら2階の自室に上がろうとリビングのドアを開けた。
「行ってくるにょ。」
ザビエルは敏太郎のベストの背中にぶら下がったまま、2階に上がって行った。
ビックリして固まっているアイに、笑いをこらえる周太郎。敏太郎が自室のドアを閉めた音がした。途端にバタバタと音がする。そしてまた静かになった。階段を降りてくる音がしてリビングに再び、敏太郎が姿を現した。
「さっき、お前が飼ってる胴の長いネズミ、じいちゃんの部屋で暴れてたんだけど…」
敏太郎が話し始めるやいなやザビエルは素早く敏太郎の背中から飛び降りた。
敏太郎がふと見ると、キョトンとした顔のザビエルが自分の足もとで敏太郎を見上げている。
「あれ?」
「じいちゃん、どうしたん?」
「…いや、なんでもない。」
敏太郎はまたもや小首をかしげてリビングを出ていった。
「ザビエル、俺の想像の斜め上行くわ!」
リビングのドアが閉まると同時に周太郎は涙を流して笑った。
「じいさんをエレベーターにするなんて、呆れるわ。でもチーもこの根性は見習わないとね。フフ…じいさんねえ。」
アイは丸かった瞳孔を細くして敏太郎の後ろ姿を見送った。
ザビエルがまた遊ぼうと言い始めたのでアイはサッサと帰ることにした。
その頃、ペットサロンに初めて連れて行かれたチーは、重子が自分を置き去りにしたことに衝撃を受けていた。
「アタシ、また捨てられた…」
うなだれるチー。
「チーちゃん初めまして。初めてのシャンプーとカット、頑張ろうね。」
トリマーの女の人はうなだれたチーを軽くブラッシングした後、大きな流しに連れて行き、優しく温かい湯をかけてシャンプーをし始めた。
「え?え?」
焦るチーをなだめながらシャンプーを済ませ、初めてのことに戸惑うチーを手早く乾かし、手際よくカット。シャキシャキとリズミカルに音を立てながらみるみるチーは涼しげな姿になっていった。
「あ? あ?」
チーは初めてのことに目が回りそう。周りの犬たちは大人しくシャンプー、カットされている。シャンプー、カットの終わった犬はケージに入れられ、一休みしている。中には飼い主を呼び続ける犬もいるが殆どは静かにしている。
チーもカットが終わり、ケージに入れられた。
チーは隣のケージに入れられたポメラニアンに話しかけた。
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