第三章 初めての体験
第33話 初めての体験➀
初めての体験➀
次の日、キョロキョロしながらアイがやって来た。
「アイさん、私、この家の犬になれました!」
とりあえずミッション完了にホッとするチー。
「そう、良かったね。」
あっさりした返事のアイは上の空。そこへ周太郎が帰って来た。
「ただいま。やっぱりアイちゃんいたか!そう思ってさ…」
周太郎は学生服のまま、カバンをゴソゴソしだした。アイは周太郎のカバンに目が釘付け。
「昨日、猫飼ってる友達に頼んだんだよね。」
周太郎は何かを掴んで取り出した。チーもアイも興味津々で周太郎の手のそばに集まった。
「ジャジャーン!」
周太郎が手を開くとそこにはちゅーるんが!
これがちゅーるん。
チーは初めて見るちゅーるんに、ふーんといった風情。だが、アイは大興奮。
ちゅーるん!噂に名高いちゅーるん!
アイは周太郎の手に飛びつこうとした。
「おっと、待ってアイちゃん。」
周太郎は立ち上がってちゅーるんの口を切って、かがみ込んだ。
ニュッと出るちゅーるん。アイは周太郎の手を前足で持って必死に舐める。
「そんなに喜んでくれるとは、ちゅーるんの威力スゴイな。」
周太郎はちゅーるんに夢中のアイの姿に苦笑い。舐め終わると、アイはゴロリと横になってウトウト。周太郎はアイのお腹をナデナデ。アイは気持ちよさそうにますます目を細める。
アイさん、猫又なのに人に懐いていいの?
チーは先行きに不安を感じ始めていた。
その頃、重子も違う不安を感じ始めていた。
最近、汗ばむような陽気の日が増えてきたのにチーはロングヘア。散歩の時にサマーカットをした犬の姿を時折見かけるようになってきた。
チーちゃんも涼しくしてやんないと!
でも、近所のペットサロンに連れて行って大丈夫なのかしら?
リビングに入ってきた重子はアイと遊んでいる周太郎のそばにやってきた。
「ねえ、周ちゃん、チーちゃんをお迎えしてから森さんと連絡取れないのよね。チーちゃんのカットとかシャンプーとかどうしたらいいのか相談したかったんだけど。」
「森さん?」
「チーちゃんが居た団体さんよ。」
「今までだったら、留守電に入れたら必ず折り返し連絡があったんだけど、譲渡契約結んだ途端に折り返しがないのよ。」
「ヤバッ!騙された?」
周太郎はニヤッと人の悪い顔をして母をからかう。
「ちゃんと相談に乗ってよ。チーちゃんってなんか表情があんまりないでしょ?普通の犬が行くようなお店に行っていいのか知りたかったんよね。」
「大丈夫でしょ。森さん、新しい保護主さんの相手で忙しいんだろうし、特に気になることないから放ったらかしなんだって。」
「うーん、そうかなあ?まあ、もういいわ。勝手にシャンプーカット行っちゃう。」
重子はプリプリしてキッチンに行き、財布をエコバッグに放り込むとリビングでザビエルに追いかけられていたチーをヒョイと抱えた。
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