第31話 鶴丸家⑪
鶴丸家⑪
保護施設ではチワワのチーちゃんと名付けられていたのがチコリとママが思いつきで命名。重子の足元にいて重子を見上げていたチーは森と重子の電話を聞いていた。
アタシ、チコリになったんだ。
ふーん、チコリ。アタシの新しい名前!
チーはちょっと嬉しくなった。
そんな時、リビングのドアが開いた。
「ただいま。」
周太郎がリビングに入って来た。周太郎はチーの頭を撫でていると電話を切った重子が嬉しそうにそばに来た。
「チーちゃんね、うちの子になったよ。名前はチコリちゃんになったんよ。アタシが名前をつけたのよ。」
「はあ?ダサっ!俺が名前をつけてやるよ。」
周太郎は振り向くとトイレにいたチーを指さした。
「ウンチを食べる、うんちのチーちゃん!」
「なんて名前つけるの‥!」
と怒るのと同時に重子は見た。チーが自分の便を食べていた。
「やめて〜!」
そう、チーはブリーダーに飼われていた時、いつも空腹であり、散歩もないのでヒマであった。そのため唯一の世界であるケージの中で自分の糞を食べる癖があった。食糞自体は犬によく見られるもの。しかしこの癖があると散歩に行った先で他の犬の糞を食べる可能性が出てくる。それは病気をもらう可能性があるということ。そのため重子はチーが自分の便を食べようとするといつも叱り、止めに入るがその程度ではチーの食糞を治すことはできなかった。
チーがかじり残した糞を片付けながら重子はそれ見たことか、と自慢げな周太郎の方を見た。
「フン!うちの子になったらいろんなことを試しても誰にも気を使うことないからね。この悪い癖、治すわよ!」
「ウンチのチーちゃん、治るかな?」
周太郎は即興で作った鼻歌を歌いながら自分の部屋に行ってしまった。
それからの周太郎はチーのことを「チー」と呼ぶこともあるが「ウンチのチーちゃん」、「ウンチー」などといろいろな名前で呼んだ。しかも周太郎は大の生き物好き。なので積極的にチーに関わり、いろいろな名前でチーを呼んだ。
重子がいつものようにブラッシングをしようとチーを探した。
そうだ、今日はチコリちゃん、チコちゃんで呼んでみよう。チーちゃんよりカワイイもんね。
ウキウキ重子はチーを呼んだ。
「チコリちゃ~ん!チコリちゃ~ん!」
チーは出てこない。重子はどこに行ったのかと廊下に出た。廊下の反対側にチーがいた。
「あら、ママが呼ぶの聞こえなかった?チコリちゃ~ん。」
チーは反応せず、おもちゃで遊んでいる。
「ん?じゃあチコちゃんかな?チコちゃん!チコちゃん!」
チーは相変わらずおもちゃで遊んでいる。
重子はムキになりチコリちゃん、チコちゃんを連発するがチーはチラッと重子を見てもおもちゃに夢中。重子が焦っていると周太郎が2階から降りてきた。周太郎は重子を無視してチーがおもちゃで遊んでいるのに気がついた。
「ウンチ!こっち来い!」
「周太郎、呼んだ?」
チコリちゃん、チコちゃんと呼ばれても反応しないチーはウンチと呼ばれると、おもちゃを置いてタタタッと周太郎の前に行った。そして次に重子を見てしっぽを振った。
「ああっ!チーちゃん、アンタ、自分の名前はウンチだと思ってんの?」
ガックリした重子。周太郎は鼻歌を歌いながらチーを抱き上げリビングに行ってしまった。
ある日、周太郎からもらったオヤツを食べながらリビングのソファの上でマッタリしていたアイは眼下で寝そべるチーを周太郎がウンチと呼ぶのを聞いた。
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