第30話 鶴丸家⑩
鶴丸家⑩
周太郎のシャツがモコモコとふくれて、動いている。そして、周太郎の首元からザビエルの顔がニュッと現れた。驚いて目を見開くチー。
だがザビエルはすぐに引っ込んだ。そして今度は周太郎の肩のあたりがモコモコと動き始めたと思ったら今度は袖口からニュッとザビエルが顔を出した。その様子をどうや!とばかりにチーに見せつける周太郎。
これを見てチーはあんぐり口を開けた。
「こいつら何者?こんな人間と動物、見たことない。」
チーが呆然としているところへ、いつ飛び出したのかザビエルが猛烈アタック。
「油断大敵にょ〜!」
またもやチーに吠えられると今度も大喜びでクルクル回転しながら部屋中転げ回り、ザビエルはどこかへ行ってしまった。周太郎も苦笑いしながら2匹を見守っている。
「ここどんな家なのよ!」
チーはまたもや驚いた。
次の日、やって来た猫又のアイにチーは昨日のザビエルと周太郎の事を報告。
「アイツらやっぱりおかしな奴らだったんだね。」
アイは背中の毛づくろいをしながらつぶやいた。
「アイさん、私、この家にいて本当に犬又になれるんでしょうか?」
不安げなチーにアイは笑った。
「アンタ、バカねえ。心配しすぎ。こんなにスキのある家でバカばっかりだから人間を困らせるのが簡単にできるんじゃない。今はこの家の犬になることをめざしなさい。」
アイはチーを励ましながら周太郎の姿を探してキョロキョロしている。アイの言葉にチーは一安心。
そこへ周太郎が帰って来た。
「オオッ!目玉のアイちゃん、今日も来てたんか!」
周太郎はカバンをゴソゴソし始めた。
「今日はチキン、半分な。俺も腹減ってんの。毎日来るなら、アイちゃん、ウチの猫になったら?ちゅーるんあげるよ。」
ち、ちゅーるん?
その言葉にアイはビクンと耳を立てた。
「ニャアン。そんなに来てほしいの?その提案、考えといたげるわ。」
アイは立場を忘れて周太郎にゴロゴロと音を立てながらすり寄る。
「アイちゃん、かわいいなあ。」
動物大好きな周太郎はアイの頭からお腹をナデナデ。もうすっかり周太郎の猫になっている。
いいのか、これで?
アイさんはどうやって人間を不幸にするのだろう?
どう見ても、周太郎に食べ物で懐柔されている。チーは日一日、鶴丸家の猫になりつつあるアイに不安を抱いていた。
そんな中、保護団体の森から重子に連絡が入った。
「鶴丸さん、チーちゃん、どうですか?壁をかじるのはおさまってきましたか?」
「ええ、お陰様で壁かじりは治りました。」
「良かった。鶴丸さんのお家に慣れてきたんですね。トイレの失敗は?」
「そちらはまだあるんですけど、オシッコで汚したところは何度も拭いてキレイにしたら、そこではやらないようになって、ちゃんとトイレできることが少しずつ増えてきました。」
「あら、それは良かったです。そろそろお返事を頂きたいんですけど。」
「そろそろですか?えっとチーちゃん、お迎えしようかなと思います。」
重子の返事に森は嬉しげな声をあげた。
「ありがとうございます。よかったです。チーちゃんが決まったことをホームページに載せたいのですが、チーちゃんの新しい名前は決まりましたか?」
「あ、えーとチコリちゃん?」
慌てた重子が返事をして、いきなりチコリと名前も決められ、チーはお迎えされることになった。
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