第29話 鶴丸家⑨

鶴丸家⑨

「アンタ誰?どこから来たの?」

「なんていい草!アタシは猫又。アンタの教育係よ。」

「あ、シロガネさんが言ってたの、アンタだったんだ。」

チーが驚いてケージから出てきた。

二人が顔を合わせた時、リビングのドアがバタンと開いた。

「チー、ただいま!」

定期テスト期間のため、いつもよりずいぶん早く帰宅した周太郎がリビングに入って来た。周太郎はケージの前でチーとチーより大きなキジトラの猫が向かい合っているのを見て驚いた。


「うわあ!なんで猫ちゃんいるの?」

アンタ、まずいよ。逃げて!

チーが叫ぶが猫は動かない。

なんで動かないの!

焦ったチーがよくよく見ると、猫は周太郎のリュックにくぎ付け。

「あれ?気がついちゃった?猫ちゃん、これ食べる?」

苦笑いの周太郎はリュックからコンビニで買ったばかりのフライドチキンを出した。猫は素早くフライドチキンをくわえて走り去ろうとしたが周太郎の方が一枚上手だった。チキンをくわえたまま猫は周太郎に抱き上げられてしまった。


「ウホー!柔らかい!いい毛並み。野良じゃないよね。お名前は?」

周太郎はキジトラのお腹に目玉のように丸いシマがあるのに気づいた。

「目ン玉ちゃん、カワイイね。」

はあ?アタシはプリティなメス猫なのよ!なによ、そのセンスのかけらもない名前は!

猫はチキンをくわえながらフニャフニャと怒った。

「あれ?なんか怒ってる?この名前嫌だった?じゃ目ン玉だからアイちゃんは?」


アイちゃん?まあ、いいかな。

猫はご機嫌が治ったようで、おとなしくチキンを食べ始めた。周太郎は猫を抱えたままリビングから出て、リビングのドアを後ろ手に閉めた。

「全部食べたね。じゃあまたね。」

周太郎は玄関から猫をそっと出した。どうなったのかとチーが待っていると周太郎が戻って来た。

「チー、あんな大きな猫が来て怖かったなあ。追い出したからもう大丈夫。」

周太郎は不安気なチーの頭をヨシヨシと撫でた。


あれ?コイツ、優しいところもあるんだ。

チーの思いも知らず周太郎はザビエルをケージから出して遊び始めた。隙あらばチーに乗ろうとするザビエル。

部屋中、チーとザビエルが追いかけあっていると重子が帰って来た。重い荷物をフウフウ言いながらキッチンへと運び、冷蔵庫へと片付けている。と、そこへインターホンが鳴った。


ピンポン!宅配でーす!

荷物を持った宅配業者がやって来た。


「ギャア〜知らないヤツが来た!お兄たん、助けて〜!」

ザビエルは大急ぎで周太郎のもとへやってきたかと思うと周太郎のシャツの裾から中へと潜り込んだ。

「知らない人間が来たからってあんなに怖がって。ザビエル、かわいいところあるんだ。」

チーはお騒がせサビエルの弱点を見つけて嬉しくなった。


重子が大急ぎで玄関に向かい、荷物を受け取っている声が聞こえてきた。

チーは重子の声を聞きながら、ザビエルの逃げ込んだ周太郎を見た。

え?何?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る