第28話 鶴丸家➇
鶴丸家⑧
次の朝、重子はチーのエサ入れを下げた。
「チーちゃん、ご飯全部食べられたね。良かったわ。」
チーを引き取ると豪語したものの久しぶりの犬に重子はこわごわ手のひらをチーの鼻先に出した。チーはクンクンと重子の指先をかぐ。チーが匂いをかいで確認したのを待ち、重子はそろそろとチーのアゴの下を撫でる。チーは嫌がる様子を見せない。さらに耳の下を撫でてみる。大丈夫そうだ。ゆっくりと頭を少しずつ撫でていく。チーの頭はチワワ特有のアップルヘッド。リンゴのように丸い。頭の形に沿って撫でていく。チーは気持ちよさそうに目を閉じた。
「チーちゃん、ありがとうね。」
チーが撫でさせてくれたことに重子はホッとした。
重子はチーのエサと水を新しくすると次はザビエルの面倒をみはじめた。
「ザビちゃん、ご飯しようね。お水取り替えようね。」
ハンモックの中でザビエルは伸びをした。その拍子にケージの上から吊り下げたおもちゃが揺れた。
「K太郎〜!」
小さな1つ目小僧のおもちゃから大きな声がした。
ゲッ!何?
チーは驚いてザビエルのケージを見た。
K太郎!の声にザビエルは反応。嬉しげにクククッ!と叫ぶと一つ目小僧にしがみついて大きく何度も揺らした。
「K太郎!K太郎!K太郎!」
「あーうるさいよ、ザビちゃん!」
重子に怒られても止めるどころか一層嬉しげにクククッ!と声を立てて揺らしまくる。重子はハイハイと言いながら手早く水を取り替え、ドライフードを容器に入れた。そしてトイレの掃除も終えた。
重子はザビエルをじっと見ているチーのところへ来るとチーの前にかがんだ。
「ごめんね、うるさくて。ザビちゃん、悪い子じゃないんだけど落ち着きがないのよねえ。」
重子はチーのあごの下から頭にかけて撫でると行ってしまった。
家事が一段落し、重子はチーのトイレトレーニングを試みた。ケージの扉を開け、ケージの外にもう一つトイレを置いてみる。
チーがトイレをしようとウロウロし始めたのを見計らってケージ外のトイレに連れて行く。クンクンと匂いをかぎ、トイレに入ろうとするチー。
やった!おりこうチーちゃん!
重子は心のなかで喝采。
だが、そう思った瞬間。チーは前足をトイレに入れたところでオシッコを始めた。
腰から下はトイレの外。
「ああ〜!惜しい!」
重子は慌ててチーを抱えてトイレの中へ。しかし時すでに遅し。トイレまわりはオシッコでビチャビチャ。ガッカリする重子に対してチーはドヤ顔。
アタシ、トイレできたでしょ!
うーん、怒るに怒れず重子はつぶやく。
「まあ、気長に頑張ろね。」
雑巾を取りに行った。
昼下がり、重子は買い物に出て家には人間が居なくなった。新しい家に来たストレスで壁をかじっていたチーはホッとして、ベッドでウトウトしていた。騒がしいザビエルもハンモックに潜り込んで寝ている。静かなリビングの掃き出し窓の先、カーテンとの隙間がぼんやり光った。
「起きなさいよ。ねぼすけ!」
小さな声に怒られてチーは振り向いた。するとそこにはいつから居たのかキジトラの猫がオシャマにツンとすまして座っていた。
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