第25話 鶴丸家⑤

鶴丸家⑤


フェレットの専門店に着いた4人は目の前ですばしこくクルクルと走り回る子供のフェレットになかなか目がついていかなかった。細長い体で走り回り、止まったと思うと団子のように数匹がからみ合い、噛み付きあっている。口元からは肉食動物らしく鋭く尖った牙がのぞいている。


「フェレットってすばしこいですね。」

大輔が思わず店のスタッフに言った。

「ええ。そうなんですよ。猫がいい遊び相手なんですけど、最終的には猫が勘弁してくれって逃げ出すぐらい体力もあるんです。」

スタッフのお姉さんはニコニコと言う。


周太郎とみゆきはただ嬉しそうに見ている。重子はスタッフのお姉さんの言葉にゲッ!と思った。

そんなに激しく走り回る動物を本当に飼えるの?

「周太郎、アンタ、本当にこんな激しい生き物の面倒みれるの?」

重子はフェレットの牙を不安げに見ながら尋ねた。

「あー大丈夫、大丈夫。」

重子は知っていた。子供の大丈夫ほど当てにならないものはない。

どうせ世話をするの遅かれ早かれアタシでしょ!

ため息をついた

重子はもう一度フェレットを見た。


そして一匹のフェレットと目があった。正面から見ると愛嬌のある丸顔につぶらなひとみ。

あれ?思ったよりカワイイ顔してんのね。

と重子が思ったら、周太郎が指をさして声を上げた。

「あ、この子に決めた。」

スタッフはハイハイと言いながら逃げられぬよう慎重に一匹のメスのフェレットをケージから取り出した。飼育に必要な物と一緒にメスの子供フェレットは鶴丸家にやって来た。その日から女の子なのにザビエルと名付けられた。ザビエルの本当の名前はモモだがモモは頭のてっぺんが少し白っぽいというだけでフランシスコ・ザビエルに似ていると飼い主の周太郎にザビエルと名付けられてしまった。今や家中を我が物顔で遊び回るザビエルのお世話を重子がしてきたのである。


世話をしてみると鋭い爪と牙に手は傷だらけになるがトボけた所のあるザビエルは可愛いと思う。しかしザビエルは世話をする人より遊んてくれる人が好きなようで重子より断然周太郎に懐いている。

なんだかなあ、毎日のお世話してるのはアタシなのに。

でも今度はアタシのチーちゃんだもんね。アタシの犬だもんね!

重子は嬉しくなって眠りに落ちた。


 このように鶴丸家には先住ペットがいた。メスのフェレットのザビエルと亀のカトリーヌとアンドレ。ザビエルはフェレットなので落ち着きがない。フェレットは犬より賢いというがザビエルは自由奔放やりたい放題のフェレット。

またカメは亀でいろいろある。アンドレは同じ亀でもすこし足りない。噛まれてもエサがまかれても三秒しないと反応しない。食欲旺盛なカトリーヌは家族の手からエサをもらいたがり、重子や周太郎を喜ばせるが、よく見ると人間の指先までをエサと勘違いしている。何度も噛まれそうになり、「このおバカ亀!」と、とうとう重子がキレた。


こんなステキな家族に囲まれて、重子はチーを迎える準備を始めた。トヨコから言われたのはケージ、トイレ、トイレシート、水飲みとエサ用の入れ物、キャリー、ベッド、ハーネスとリード。フードは寄付されたものを与えているのでなんでもいいと言われたが、重子はトヨコに聞いて今、与えているものと同じものを用意した。



その頃、電気を消されて真っ暗になった部屋の中、チーはケージの向こうに座る一匹の白い猫と話をしていた。


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