第24話 鶴丸家④
鶴丸家④
「なんのかんの言っても受験終わって落ち着いたら子供が言ってくれるよ。お母さん、ありがとうって。」
先輩ママ友は我が子からその言葉を贈られた時のことを思い出したのか、なんとも幸せそうに微笑んだ。
そうよね。そうよね。
重子は周太郎がいつ言い出すのかとワクワクして待っていた。だが周太郎はなかなか言い出しそうにない。気が付くとテーブルの上の料理がほとんど無くなっている。重子は焦った。
「そろそろケーキのロウソクに火をつけるね。」
笑みを浮かべて重子は料理の皿を下げ、ケーキのロウソクに火をつけた。周太郎はフゥと一息でロウソクを吹き消した。切り分けたケーキをそれぞれに渡して重子は椅子に座った。
「ホント、周太郎はよく頑張ったよね。アタシもフォローすんの大変だったわ。」
さり気なく、だが重子はしみじみと家族みんなに聞こえるようにつぶやき、ちらりと周太郎を見た。
その言葉にご機嫌でケーキを頬張っていた周太郎の眉がピクリと動いた。
「はあ?何言ってんの?お母さんなんかなんにもしてねえじゃん。」
語気鋭く周太郎が重子を睨みつけてきた。
重子は、あ然とした。
ウッソ?
え、ここは感謝の言葉じゃないの?
「こっちこそハア?だわ。アンタね、アタシがどれだけ気を使ったと思ってんのよ」
「じゃあ聞くけどさ、お母さん、俺のために何したの?弁当作った?勉強教えてくれた?」
「家から歩いて通える塾に行ってんのに、なんで弁当がいるのよ。アタシが勉強教えられるんだったら塾なんか要らないじゃない。」
「ほら見てみ。なんにもしてないじゃん。」
「あのねアンタの八つ当たりとか受け止めるの大変だったんだからね!」
「俺の八つ当たり?俺等だってお母さんに毎日、八つ当たりぶつけられてるんだけど。これだって結構しんどいんだよ。お母さんは全然気がついてないみたいだけどさ。」
重子はウッと詰まってしまった。
敏太郎と大輔とみゆきは自分たちに飛び火してこないかとドキドキしながら二人のやり取りを見ていた。重子が一瞬黙った隙に大輔は素早く割り込んだ。
「あー、ケーキ、美味しかったな。さあ、ご褒美のフェレットを買いに行こうか、周太郎?」
「アタシもフェレット見たい!お兄ちゃん、早く行こうよ!」
「そうそう早く行っておいで。」
フェレットと聞き、周太郎は大急ぎでケーキを飲み込んだ。留守番の敏太郎はさておき重子を除く親子3人はもうフェレットのことに頭が切り替わった。
なによ!
ムッとしたものの、重子のことはもう話題には登らない。仕方なく重子もフェレットを買いに行くのについて行った。
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