第18話 新たな世界へ⑱

新たな世界へ⑱


次の日の昼下がり。お母さんはモコの毛をブラッシングしていた。モコはお母さんの膝の上で気持ちよさそうに目を細めている。ひとしきりモコをブラッシングした後、お母さんがチーもブラッシングしようとした。


「チーちゃんもブラッシングしよっか。さあおいで。」

お母さんはチーの頭を撫でて声をかけた。嬉しくなってチーは大きくしっぽを振った。お母さんの膝の上に乗ろうとヒョイと飛び上がった。と、その時、モコに体当たりされてチーは弾かれた。モコは低くうなった。


「お母さんにブラッシングしてもらうのはアタシだけ!」

すかさずお母さんにもっとブラッシングしてと甘えた。あらあらと困った顔をしたもののお母さんは再びモコのブラッシングを始めた。


悔しさに震えるチー。その有り様を2階からあくびしながら降りてきたハルカが見ていた。

「チーちゃん、お姉ちゃんがブラッシングしたげるよ。」

ブラシを持ったハルカはチーを抱き上げるとサッとチーを膝の上に乗せ、ブラッシングを始めた。


え?え?急に始まったブラッシングにとまどったものの、すぐにブラッシングのも心地よさにチーはうっとり。リラックスして膝の上で甘えるチーにハルカも頬を緩める。一通りブラッシングを終えるとチーの顔を両手で包み、耳の下を撫でながらハルカは優しくささやいた。


「チーちゃん、ブラッシングって気持ちいいよね。またいつでもしてあげるよ。」

「お姉ちゃん、やっぱり大好き!」

チーは伸び上がってハルカの顔をペロペロ舐めまわした。コラコラと言いながらハルカも嬉しそうにチーを抱っこした。チーはハルカを自分のお母さんにしようと改めて心に決めた。


 ハルカと遊びたい。ハルカがいつ誘ってくれてもいいようにその日からチーはずっとハルカを目で追うようになった。だがハルカはとても忙しかった。


仕事も慣れてきて、任されることも増えてきたハルカは仕事で多忙なだけではなくプライベートも楽しんでいた。平日は職場の飲み会だけでなく同期の女子とも女子会を楽しみ、休日は朝から大学時代の友人とよく出かけた。


ハルカは家に帰ると、ただいまの言葉とともにチーの頭を撫でてくれる。だがその後はもうチーのそばには居てくれない。ハルカはご飯を食べながらお母さんとおしゃべり。その後はテレビを見たり、スマホをいじったり。そして、モコとチーの頭を撫でる。


「チーちゃん、今度、お散歩しようね。じゃあおやすみ。」

いつも笑顔でそう言うと、さっさと2階の自分の部屋に上がってしまう。


チーはその度に立ち上がろうとする。

「ホント?お姉ちゃん、いつ?いつ?もっとそばに居て!」

キャンキャンと訴えるもハルカが答えることはない。



淋しいチーにモコはつぶやいた。

「お姉ちゃんはアテにならないの。自分のことで頭がいっぱいだからね。」

スマホで電話しながらハルカが2階に上がる後ろ姿をチーは悲しい目でも見送った。

「もう人間なんて信じない。」

心を閉ざすチー。お家トレーニングはそんな気持ちのまま終わってしまった。


がっかりした暗い気持ちでチーが施設に戻るとリルがいたケージに別な犬がいる。

おばさんが居ない!

おばさんどこ⁉︎

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