第19話 新たな世界へ⑲

新たな世界へ⑲


驚くチー。そこへ太郎がやって来た。

「ねえ、おばさんのところに知らない子がいるの。おばさん、診療所?まだ悪いの?」

太郎はチーと目を合わせてくれない。

じっと太郎の言葉を待つチー。やがてポツリと太郎がつぶやいた。

「メグは死んだ。」

ウソ!ウソ!ウソ!

チーはギャンギャンと太郎を責めた。


太郎はただ悲しげな顔でチーをを見た。

「、、、、ホントなの?どういうこと?教えて。」

太郎によると繁殖場での暮らしは思ったよりメグの心臓を痛めたようで、ケージに戻る予定の前日、突然発作を起こし死んだという。

「おばさん、なんで待ってくれなかったの?」チーはショックでうずくまってしまった。


細い細い三日月の夜。ライトを消した犬舎は真っ暗。犬達は皆眠っている。チーもまた疲れて眠っていた。月が南中した頃、犬舎の片隅がぼんやりと白く光った。


「チー、起きるんだよ。アンタに伝えなきゃいけないことがある。」

自分の名前を呼ぶ声にチーは目を開けた。

目の前にどこから入ってきたのか大きな白い猫がガラス玉のような美しい目でじっと見つめていた。


「シ、シロガネさん?」

「アンタ、人間としばらく暮らしてたんだってね。リルはアンタの話しを聞きたがってた。でも山でのあの暮らしがリルの命を奪ったの。あのクソジジイが!」

シロガネは唸るように吐き捨てると燃えるような赤黒いオーラをまとった。チーは恐ろしさにケージの一番後ろへと後ずさった。


それを見てシロガネはフウと大きなため息をついた。すると恐ろしげなオーラはみるみる小さくなり、消えた。

「ああ、おどかしてすまなかったね。リルから預かったアンタへの最後のメッセージつたえるわ。

幸せにおなり、アタシの分まで。」


チーは胸を締め付けられた。

おばさん!おばさん!

声を立てることもできずに泣くチーにシロガネは聞いた。

「アンタ、人間の家でどうだった?人間のこと好きになれた?」


チーは言葉を失った。

「そ、それは、、、、」


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