第17話 新たな世界へ⑰

新たな世界へ⑰


目の前に大きな水たまりが広がっていた。鳩やカラスでない鳥が水たまりに何羽もいる。のんびり浮いているだけでなく羽繕いをしたり、時折頭を水面の下に突っ込んだりしている。

チーがビックリしている様子を見てお母さんもモコもなんだか嬉しそう。

「初めてかな?この大きな水たまりは池って言うのよ。」

池!こんな大きな水たまりは初めて。リードをいっぱいにのばしてチーは思わず池のそばまで駆け寄った。


「ちょっと、あんまり体を乗り出すと池に落ちるよ!」

モコに怒られてチーはハッとした。もう一歩、柵からはみ出すとそこはもう池の水面。底は全く見えず案外深そう。チーは一歩下がって池を眺めた。

「良かった。チーちゃん、池は楽しい?ここはぐるっとまわれるから一周してみよう。池の反対側から見ても面白いかもよ。」

お母さんはチーの横に屈んで優しい声で話しかけてくれた。


池の周りはたくさん置いてあるベンチに座ってのんびり池を眺める人、おしゃべりを楽しむ人、飲み物片手に休憩したり、本を読んだり、スマホを見ている人などなど、人々がいろんな楽しみ方をしている。遊歩道はランニングやウォーキング、散歩を楽しむ人、犬を連れている人などこちらもいろんな人がいる。


チーはお母さんのリードに促され、モコの後をついて歩きながら池や池の周りを眺めた。

池の周りを半周したところでお母さんはベンチに腰掛けた。

「さあ、お水飲もっか?」

お母さんはシリコン製のコップを2つお散歩袋から出してモコとチーの前に置き、水を注いだ。

モコはペチャペチャと音を立てて水を飲んだ。

しかし、コップの匂いを嗅いだもののチーはモコとお母さんの顔を見た。

なんか、匂いがヤダ。


「あら、チーちゃんはダメ?じゃあお家まで我慢してね。」

せっかく用意してくれたのにゴメンね、お母さん。

お母さんはサッサとコップの水を道に捨て散歩袋にコップを片付けた。チーが申し訳なさそうに見ていると横にモコが来た。

「気にすることないわ。家の陶器の入れ物以外では水が飲めない子はよくいるの。さ、行くよ。」


お母さんは水を飲み終えたモコのコップを片付けながら歩き始めた。池の周りの散歩道も少し歩き慣れて来た。池に目を向けると水面にいる鳥は初めて見るものばかり。

知らないこといっぱい。世の中って広いんだ。お姉ちゃんに今日のこと伝えたい。

チーはハルカに話したいことができて、ますますハルカに会いたくなった。


 その夜、ご飯を食べ終えたチーは玄関に近いドアをじっと見て今か今かとハルカが帰ってくるのを待っていた。しばらくするとお父さんが帰ってきた。お父さんはモコとチーの頭を撫でると2階に着替えに行き、またすぐ降りてきた。そして食事の並べられたダイニングテーブルに座り、新聞と呼ばれる大きな紙を読みながら食事を始めた。


お姉ちゃん、早く帰ってこないかな。チーはハルカの足音が聞こえないかと玄関の方をずっと見ていた。ハルカはなかなか帰ってこない。そのうち食事を終えたお父さんはテレビを見始めた。11時のニュースを見終わると自分の寝室に引き上げて行った。お母さんは洗い物が終わり、ゆったりとした服に着替えて化粧も落とし、のんびりドラマを見ている。そのドラマが終わり、テレビを消した。その時、ガチャリと音がした。


「ただいま。」

ハルカがリビングに入ってきた。少し頬が赤い。お酒の匂いがプンプンする。ハルカはお母さんからコップで水をもらうとゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。


「あー美味しい。もう寝る。」

化粧も落とさず、チーに一瞥もくれずハルカは2階へ上がって行った。

「ハルカも帰ってきたし、お母さんも寝るね。おやすみ、モコ。おやすみ、チーちゃん。」

リビングの電気を消し、ハルカに続いてお母さんも2階に上がっていった。



お姉ちゃん、、、、

がっかりしたチーは不貞腐れて前足に頭を乗せるとため息をついた。

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