第16話 新たな世界へ⑯

新たな世界へ⑯


チーは門の前に踏み出した。お母さんが門を閉めているとモコがそばにやってきた。

「アンタ、花壇の花、食べないでよ。と言うか、花は全部食べない方がいいの。花って毒になることが多いのよ。気をつけて!」

「ええ!そうなの。ありがとう教えてくれて。」

「別に。アンタが花食べて死んだらお母さんが困るから言っただけ。勘違いしないで。」

モコはフンと鼻を鳴らすとお母さんの横に並んだ。


「お待たせ。さあ行こっか。」

お母さんは2匹を連れて散歩を始めた。モコとチーは道路の匂いをクンクンと嗅ぎながら近所の一軒の家の近くを通りかかった。

「モコちゃん!モコちゃん!」

犬の吠える声にモコはその家の方に走り出そうになったのをお母さんのリードで止められた。


「前田さん、今度の新しい子?」

真っ白なマルチーズを抱っこして女の人が庭から顔をのぞかせた。女の人はそっとマルチーズをモコの前に下ろした。2匹は知り合いのようでお互いの匂いを嗅ぎまわっている。

「そうなのよ。2週間ほどいます、小泉さん、ムギちゃんよろしくお願いしますってね、チーちゃん。」


お母さんはチーを抱っこすると小泉という女の人とマルチーズのムギにご挨拶をした。

「チーちゃんっていうんだ。この子かわいいね。撫でて大丈夫かな?」

小泉さんはゆっくり手のひらをチーの前に出し、チーが匂いを嗅げるようにしてやった。チーが小泉の匂いを確認すると小泉は優しく耳の後ろからアゴの下を撫で始めた。


「チーちゃん、短い間だけどよろしくね。」

小泉は優しい声でチーに語りかけた。チーもしっぽをふって返事をした。

「あ、よろしくお願いします。」

お母さんは次にムギが見えるところにチーを置いた。道路に足をつけたチーにモコとムギがやってきた。クンクンとお互いの匂いを嗅ぎ合うチーとムギとモコ。匂いを嗅ぎ終わるとモコが緊張気味のチーをムギに紹介した。


「この子がしばらくウチにいるチー。よろしくね、ムギちゃん。」

「アタシ、ムギ。よろしくね。」

「あのチーといいます。ムギさん、よろしくお願いします。」

ドキドキしておどおどするチーにムギは朗らかに言った。


「チワワなんだね。アタシはマルチーズだよ。前田のお母さんいい人でしょ。いいお家に来れて良かったね。チーちゃん、ラッキー!」

前田のお母さん、いい人なんだ。アタシ、ラッキーだったんだ。チーはホッとした。


小泉とムギに見送られてお母さんとモコとチーは散歩を続けた。モコはお母さんの横に並んで歩く。リードはたるみ、上手にお母さんと歩調を合わす。チーはモコの歩く様子を見ながら真似をするも、お母さんより早くなってリードがピンと伸びる。そしてお母さんに歩みを止められてしまう。なかなかうまくはいかない。

「アタシに合わしてくれるの?優しいねチーちゃん。」

お母さんはチーの様子にニコニコ。

「そう簡単じゃないけど、そのうちできるようになるわ。毎回練習しなさい。」

モコは自慢げにチーを見た。


人に合わせて歩くのも慣れなきゃ。お姉ちゃんと散歩に行くまでにちゃんと歩けるように頑張んないと。

チーはハルカとの散歩を考えながら歩いた。

お母さんはあまり車の来ないチーが歩きやすそうな道を選んで歩いた。途中、塀の上で昼寝をする野良猫の姿を見たり、ムギとは違うモコの友達に挨拶されたり、また小さな人間の子供にワンちゃん!と指さされたりとチーにははじめてのことばかり。また途中で2匹がしたオシッコをお母さんはペットボトルの水をかけ、ウンチは袋に入れてお散歩袋に入れた。


チーは道路のさまざまな匂いを嗅ぎながら歩いているとお母さんとモコが立ち止まった。

ん?チーはふと頭を上げ、思わず目をまん丸にした。

なにこれ⁈

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