第12話 新たな世界へ⑫
新たな世界へ⑫
どれだけ時間が経ったのか、お腹が空いてチーは目を覚ました。モコはお母さんからご飯をもらうところ。床にお皿が置かれると同時にモコは食べ始めた。お母さんはその姿を愛おしげに眺めている。
いいなあ、お母さん。
チーが2人を見つめているとお母さんが振り返った。
「チーちゃん、目が覚めた?チーちゃんも食べる?」
チーはなんとなくご飯を食べるのかと聞かれたような気がして、パタンパタンとしっぽを振った。お母さんはフフと笑うとチーにもご飯を持ってきてくれた。
「チーちゃんの口に合うといいんだけど。団体さんの方が高級なフードなのよね。ゴメンね。」
チーは出されたカリカリのドライフードにササミのほぐし身のウェットフードがかけられたご飯に口をつけてみた。
あ、美味しい。チーは嬉しくなってパクパクとご飯を食べた。お母さんは2匹の様子をニコニコしながら見ていた。チーは出されたご飯をきれいに平げ、お母さんを喜ばせた。
「全部食べられたの?おりこうさんね。」
床に膝をついてお母さんはチーの頭や耳の後ろを優しく撫でてくれた。お母さんの花のような匂い、優しくて甘い声、細くて白い指。チーはお母さんが大好きになった。
お母さん、ありがとう。チーは甘えてお母さんの膝に体を擦り寄せ、膝に乗せてと前足でお母さんの太ももを軽く引っ掻いた。
「あら、もう甘えてくれるの?かわいい子ね。」
床に座ったお母さんはチーを抱き上げて膝に乗せ、ヨシヨシと頭から背中にかけて優しく撫でてくれた。
お母さんっていいもんだな。チーは甘えてお母さんの顔を舐めようとした。すると、
ウウゥー!
いきなり唸る声がして、チーはお母さんの膝から弾き飛ばされた。
「モコちゃん!」
床に投げ出されて驚いたチーが振り返るとモコが歯茎を見せ、眉間にシワを寄せて唸っている。
「勘違いすんな!このお母さんはアタシのお母さん!アンタのお母さんじゃない!」
今にもチーに飛びかからんとするモコをお母さんは必死で宥めた。
「ゴメンね、モコちゃん。お母さんはモコちゃんだけのお母さんだからね。」
お母さんの言葉とお母さんに抱き上げられて勝ち誇ったように上から見下すモコの視線。チーは思い知った。
この人はアタシのお母さんじゃない。
しっぽを後ろ足の間に挟みながらチーは自分のケージに戻り、ベッドにうずくまった。
晩御飯の支度を始めたお母さんの傍にチンと座るモコ。時々、モコに優しく声をかけるお母さん。その姿を見るとチーはだんだん寂しく悲しくなって来た。
アタシもお母さんが欲しい。
ベッドの上で重ねた両手にあごを乗せ、ふて腐れたようにチーはボンヤリしていた。
ガチャリ。「ただいまー!」
リビングのドアが開いた。
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