第11話 新たな世界へ⑪
新たな世界へ⑪
スタッフが帰るとすぐお母さんはチーを入れたままキャリーを持ち、廊下を歩いてすぐのドアを開けた。中はリビング。板張りのフローリングである。お母さんが一歩リビングに入ると1匹の焦げ茶色のトイプードルがキャンキャンと鳴きながら駆け寄ってきた。
「お母さん、抱っこ、抱っこ!」
お母さんはキャリーをリビングの中に入れ、ドアを閉めるとすぐそのトイプードルを抱き上げた。
「モコちゃん、かわい子ちゃん。今日からしばらくチーちゃんをよろしくね。」
お母さんはモコの前でキャリーの扉を開けた。おそるおそるキャリーから出て来たチー。目の前のモコはメグと同じトイプードル。チーは少し嬉しくなった。モコとチーはお互いのお尻の匂いを嗅ぎ合い、お互いを確認したところでモコが声をかけた。
「アタシ、モコ。アンタ、誰?」
「は、初めまして。チーと言います。よろしくお願いします。」
チーの挨拶を聞くと、モコはチーには何も言わずに甘えた瞳でお母さんを見上げた。
「お母さん、この子の面倒、任せといて。」
「モコちゃん、今回もヤル気満々ね。頼んだわよ。」
お母さんは嬉しそうにモコの頭を優しく何度も撫でてやった。
お母さんはキャリーを再び持ち、リビングの床に置かれたお家トレーニングの犬用のケージの横にキャリーを置いた。
「さあ、チーちゃん、ここがチーちゃんのお家ですよ。」
モコに促され、チーはケージの前まで歩いて行った。ケージの扉が開いており、中には水の入った皿が置かれていた。
この水飲んでいいのかな?
喉が渇いたものの勝手に飲んでいいのかとチーはお母さんの方を見た。お母さんは優しく微笑んでうなずいた。
「チーちゃん、長旅で喉乾いたでしょ。いっぱい飲んでね。」
次にお母さんの横に立つモコを見た。
「チー、飲んでいいよ。アンタのトイレとベッドとご飯に水はここだから。ちゃんと覚えといてよ。」
モコはチーにより小さな体で偉そうにチーに言った。
「モコちゃん、チーちゃんが一服したらうちを案内してあげてね。」
モコが大きくしっぽを振っているのを見て、おりこうさんとつぶやくとお母さんはリビングの奥にあるキッチンへ行ってしまった。お母さんが行ってしまうとモコも自分の寝床に行ってしまった。
チーは開け放たれたケージの入り口から頭だけを突っ込んで水を飲んでいたが、喉の渇きが癒やされるとソロリソロリとケージの中に入った。ケージの中にはトイレとステンレスの銀色の水の入れ物、ご飯を入れるのであろう白い陶器の入れ物、そしてピンク色のベッドがあった。
ベッド!自分だけのフワフワのベッド!
本当にいいの?
チーはチラチラと周りを見回して見た。
モコは既に自分のベッドで気持ちよさそうに寝転んでいる。じゃあいいのかな?チーはベッドに足を踏み入れた。洗い立てのベッドは清潔で柔らかく、周囲が少し高くなっており、アゴを乗せるのにちょうどいい。アゴを乗せてベッドに体を沈めると自然にフウと息が出た。疲れたチーはスウスウと寝息を立ててあっという間に眠りに落ちていった。
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