第10話 新たな世界へ⑩
新たな世界へ⑩
次の日、いつもチー達の世話をしてくれるスタッフの若い女がチーのケージをのぞきこんだ。
「チワワのチーちゃん、今日からお家トレーニングだよ。キャリーに移ろうね。」
ケージから抱き上げられた。チーがメグのケージを見ると、そこは空っぽ。寒々とした薄暗い空間があるだけだった。
「おばさん、お土産話、楽しみにしてて。」
チーは一声ワン!と鳴いた。
「あれれ?メグちゃんが気になるの?メグちゃんも頑張ってるよ。チーちゃんも頑張んなきゃね。」
スタッフに優しく頭を撫でられて、チーはキャリーに移された。キャリーを乗せた車は走り出した。
窓から見える景色は木ばかり。散歩の時も周りは木々に囲まれて雨上がりは土の匂いがきつい山の中だった。この団体にレスキューされる前、ブリーダーさんの小屋にいた時も山の中だった。レスキューされた時に初めて山の中の小屋にずっと自分がいたことを知った。同じ山だけど、ここの山はちがう。自分たちを守ってくれる人間たちとの暮らし。人間とこんな暮らしがあるなんて思いもしなかった。
お家トレーニング。これから何が始まるのだろう。チーは期待と不安で小さな体を震わせた。
チーの思いも知らず車は順調に山から街へと移動して行った。そして住宅街に入って行き、前田というネームプレートの二階建ての家の前で車は止まった。
運転していたスタッフは門についている黒い箱の上のボタンを押した。
ピンポーン
黒い箱から人間の女の声がして家の扉から中年の女が出てきた。スタッフはチーのキャリーを持ち、女について家の玄関まで入った。
「お世話になります。この子が今日からお世話になるチワワのチーちゃんです。」
「あら、かわいいお顔。ねえ、名前はただのチーちゃんじゃダメなの?」
「もう一頭、チンチラにもチーちゃんがいるんですよね。代表がチーちゃんしか名前を思いつかなくって。」
スタッフが、いやあと頭をかいた。
「ウフフ、そうなんだ。でもうちにはチーちゃんは1人だからお母さんはあなたのこと、チーちゃんて呼ぶね。」
お母さん!この人がアタシのお母さんなんだ!自分のことをお母さんと呼んだ女は優しい声で目を細めてチーに優しく語りかけた。チーは照れくさい気持ちでお母さんをそっと見上げた。
お母さん、よろしくお願いします。
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